日本は諸外国と比較して、外食・サービス・テーマパークの入場料など、さまざまな商材の価格を高くすることができていません。原材料や人件費の高騰が進んでも、日本企業には“企業努力”という名のコスト削減によって乗り切ろうとする傾向があり、価格を上げたり変動させたりすることに消極的です。その理由は、価格よりも販売数で伸ばしていこうとするビジネス慣習や、プライシングという戦略的業務に知見のある人材が業界・企業に不足している点などが挙げられます。

日本企業のプライシングが遅れている3つの理由

日本企業がプライシングの変革に着手するとき、実は一番の課題となっているのはテクノロジーではありません。データに基づいてプライシングを行うソリューションや基礎技術は、既に存在しています。ボトルネックとなっているのは、どちらかと言えば人間のほうです。その中でも、マインドセット・ノウハウ・組織の3つが壁となっていると考えています。

日本企業のプライシングが遅れている3つの理由
 

 

ある業界において、新しい形のプライシングを適用することに踏み出せなかったり、長年のビジネス慣習が取引関係や価格を硬直化させてしまっていたり、というのがマインドセットの壁です。変動価格の導入を考え、情報収集を積極的に行っている企業からでさえ、「長らくプライシングに手を付けてこなかったのでお客様の反応が怖い」といった声はよく聞かれます。

価格戦略をどう作り、どのように実行・改善していくのか。ダイナミックプライシングなど新しい施策の導入をどのように進め、お客様へ伝えればよいのか、といったノウハウ不足が第2の壁です。デジタルマーケティングなど広告運用の世界では、こうしたノウハウの探求や企業を超えた共有・学び合いが進んでいます。多くの書籍やウェブ情報を見つけることができ、ビジネスカンファレンスも活発に行われています。しかし、プライシングはまだまだ、そのレベルに至っていません。プライシングに関する知識や経験が、企業内でも、業界全体でも不足しているのです。

知識だけではなく、プライシングの意思決定の仕組みや責任が企業の中で明確化されていないケースも見られます。これが組織の壁です。多くの企業において、営業部や商品部、販促部があり、責任者もはっきり置かれているでしょう。しかし、「価格の責任者」は誰でしょうか? 部門長同士が集まって何となく決めている例、営業担当や店舗において個別最適で値引きが行われている例なども散見されます。プライシングは経営者のミッションであり、重要性が高いことは認識され始めているものの、組織やマネジメントが追いついているとは言い難い状況です。