世界のトップ企業のプライシング動向──行き過ぎたオファーが問題を生むケースも

今、世界のトップ企業ではプライシングに対する投資と実験が積極的に行われています。たとえば小売領域の巨人・Amazonも、ダイナミックに商品価格を変動させて最適解を探る取り組みを行っています。実はAmazonは2000年代に「個人によって表示価格を変えるような価格差別の行き過ぎた取り組みをしているのではないか」と指摘を受け、炎上したこともありました。現在は「最適な価格を探るテスト方法としてランダムに提示価格を変えることがある」と説明されています。

松村大貴著『新しい「価格」の教科書 値づけの基本からプライステックの最前線まで』(発行:ダイヤモンド社)
松村大貴著『新しい「価格」の教科書 値づけの基本からプライステックの最前線まで』(発行:ダイヤモンド社)

個人によって違う価格提示をする、パーソナライズド・オファーを積極的に進めてきたのが、タオバオ(淘宝)などの中国のテック企業です。以前から、個人の信用スコアによってさまざまなサービス特典が受けられるという仕組みが日本でも話題となっていました。最近では個人の購買・利用履歴に基づいたパーソナライズド・オファーが進行し、結果として問題も発生しています。「殺熟」(常連客冷遇の意)と呼ばれるこのトレンドは、新規ユーザー獲得のために割安なオファーが出される一方、継続的に利用してきた顧客に対して高額な料金が提案される仕組みでした。このことがユーザーに明かされて大きなバッシングとなり、規制や罰金の対象になるところまで議論が進んでいます。

世界最高のダイナミックプライシング活用企業と言えるのがUberです。タクシー配車アプリのUberは、瞬間的な需要と供給のギャップに応じて利用客に示す価格を変動させるだけでなく、ドライバーへの報酬額を変動させることで、必要な場所に必要なタイミングでタクシーを集まりやすくする機能が実装されています。

日本でもさまざまなギグワーカー的サービスにこのプライシング手法が取り入れられています。たとえばフードデリバリーの領域では、ステイホーム期間に成長したデリバリー需要に対して供給を担えるライダーが不足する中、各社がさまざまな報酬額変動の仕組みを取り入れ、競い合っています。

Photo: Tomohiro Ohsumi / Getty Images
Photo: Tomohiro Ohsumi / Getty Images

ここで挙げたAmazon、タオバオ、Uberのようなリスクを取った積極的なプライシングへの取り組みは、世界のトップ企業の中で急速に進んでいます。イノベーションの余地の大きいプライシングという領域に、日本企業も同じく高い視点を持ち、変革の第一歩を踏み出せるよう、筆者としても継続的に啓蒙を行っているところです。

後編では、企業がどのように価格戦略を考え、アップデートを行っていけばいいのかという具体的な話をしていきます。