こうした3つの壁を乗り越えるためにも、まずはビジネスにおける価格というものの捉え方をアップデートし、組織内で目線をそろえていくことが重要です。

ハルモニア代表取締役 松村大貴氏
ハルモニア代表取締役 松村大貴氏

変動価格が広がる「価格3.0」の時代はもう来ている

『新しい「価格」の教科書』の中ではお金の誕生にまでさかのぼり、価格がどのように変化してきたのかという価格の歴史をまとめています。「価格1.0」は個別交渉の時代です。お金の発明から約3600年が経ちましたが、その歴史の大部分は取引時に個別に値段交渉をして決めるという方法が中心でした。「価格2.0」と呼んでいるのは、今の私たちに最もなじみ深い、商品に値札が付いていて一律の価格が提示される一律価格の時代です。この歴史は意外と浅く、約150年前からとされています。

私が今注目しているのは、変動価格が広がる「価格3.0」の時代です。航空業界、ホテル、スポーツ業界などで導入が進むダイナミックプライシングや、オークション、パーソナライズ等の価格の決め方のアップデートが、今まさに起きている変化です。

知って欲しいのは価格3.0の世界観
 

 

2020年ごろから、ダイナミックプライシングがニュースやビジネス誌で注目を集めることが増えてきました。その理由の1つは供給の硬直化にあります。たとえば、ホテルは供給できる客室数が毎日固定で決まっています。売れる数が決まっていて翌日に在庫を持ち越せないというビジネスの特性上、動かせる変数は必然的に価格になってきます。一方で、製造業や小売業など他の業界なら、需要増加が見込めるのであればより多く仕入れたり、店舗を増やしたり、工場の生産能力を増強したりと、成長していく需要に対して供給量を増やしていくことが可能ですし、それが今までは定石とされてきました。

しかし、人口減少やパンデミックの影響を受ける今、各業界の供給を増やしていけばいいという理論が破綻し始めています。20世紀に定石とされてきたような、たくさん作ってたくさん売るという方法の難易度が高まっているのは間違いありません。今後も需要の乱高下が想定されると考えると、企業において供給を増強するアプローチはますます選択しづらくなっていくでしょう。必然的に取れる打ち手として、顧客単価をどう高めていくか、その手段としてのプライシングへと目が向いていくのです。

また、昨今では消費者の意識の高まりに伴い、各企業のサステナビリティに対する意識が向上していることも「価格3.0」への変化を促しています。たとえば、食品ロス・物流クライシスといった、需要と供給がマッチしないことによって起こる社会課題是正の話が挙げられます。こうした文脈や、「働き方・生き方はもっと柔軟で合理的であるべき」という世論が高まってきたことが、プライシングやライフスタイルを硬直的から流動的な形へとシフトさせていると言えるでしょう。