この領域でAIを活用した自動化の障壁となってきたのが、教師データを集める難易度の高さだ。特にディープラーニングを用いて検査を自動化する場合、最初に大量の「不良品データ」を用意しなければならない。

これが日本の製造業にとってはハードルが高いことに加え、 計算過程が複雑であるが故の“判断基準のブラックボックス化”などに難色を示す企業もいる。

結果的に一部の超大手企業などを除き多くの企業がAIによる自動化を断念し、目視作業に頼っているのが現状だ。

製造現場がこのような課題を抱えている中で、アダコテックでは産業技術総合研究所(産総研)生まれの特許技術を用いた独自のAIによって、検査の自動化に取り組んできた。

アダコテックのソフトウェアによるAI検査画面のイメージ
アダコテックのソフトウェアを用いたAI検査のイメージ

現在は自動車産業のメーカーを中心に取り組みを進めており、実証実験なども含めて累計145社にソフトウェアを提供。直近では本田技研工業と共同実証を実施するなど、日本を代表するメーカーとの連携も広がっている。

アダコテックでは今後さらなる事業拡大を目指していく計画。そのための資金としてリアルテックファンド、Spiral Capital、東京大学協創プラットフォーム開発、東京大学エッジキャピタルパートナーズ、DNX Venturesを引受先とした第三者割当増資により総額11億円を調達した。

少量の正常品データで学習モデルを構築、産総研生まれの独自AI

アダコテックは2012年の設立。産総研で生まれた「HLAC特徴抽出法」を社会課題の解決に活用するべく、現在はその技術を製造業における検査の自動化を進めている。

HLAC特徴抽出法の大きな特徴が、不良品ではなく「少量の正常品のデータのみで、精度の高い学習モデルを構築できる」ことだ。「正常(通常)」とするデータの範囲を求め、そこから逸脱したものを異常として判定する仕組み。正常品のデータが100〜200枚程度あれば検査モデルを作れる。

そのため従来ネックになっていた「時間をかけて大量の不良品データを集める」必要がなく、計算過程やアルゴリズムがシンプルなため結果の根拠がブラックボックス化しない、計算負荷が少ないので汎用PCで計算処理ができるといった利点もある。

「従来の(ルールベースの)画像解析では、欠陥の種類が多かったり、素材が均一ではなかったりする領域において自動化が難しかったんです。そこでディープラーニングに期待が集まったのですが、今度は大量のデータが必要なことやブラックボックス化がネックになって『もう人がやるしかないよね』となってしまった。実際に当社のお客様の6〜7割は過去にAIを試されている印象ですが、試した結果うまくいかずに幻滅し、『AIは使えないのではないか』と思われているところから話がスタートすることもあります」(河邑氏)