海外で一般的に行われていることが日本ではなぜ難しいのか、という疑問を持ち、「慣習がない、事例がない」というだけの理由であきらめたくないという想いがありました。そこで、証券会社と議論を重ねて、最終的にはガイドラインに準じた開示文案を作成し、実行に移すことができました。

(中略)

法制度の改正を待つのではなく、既存の枠組みの中でもできることを追求し、「実務の事例から積み上げていく」ことも、我々のような企業側から起こせる一つの動きではないでしょうか。

金融ナビ:【インタビュー企画】freeeのファイナンス統括に聞く!
「海外公募増資352 億円」の道のり~「健全な懐疑心」で慣習の壁を乗り越える

最適なスキーム選択ができるノウハウの蓄積

Mikatus案件では、トータル25.2億円のうち4.5億円が、Mikatusによる第三者割当増資の引受に充てられている点も特徴です。今回、freeeの完全子会社になったことで、Mikatusの旧株主陣は、無事イグジットを果たしました。一方、Mikatus社にとっては、株主が交替したからといって自社にキャッシュが入ってくるわけではありません。増資を組み合わせることで、その点をカバーした本スキームには、SaaSの成長プロセスを知り抜いたfreeeらしい配慮を感じます。

旧株主のイグジットにおいて、現金対価株式交換を活用しているのもポイントです。株主総会の特別決議(3分の2の賛成が必要)で成立する株式交換は、旧株主中に少数株主が多いケースでも、スピーディーに完全子会社化を実現できる手法です。これに加えて、対価を現金にする(2006年施行の会社法により、株式交換の対価として現金も選択できるようになっています)ことで、旧株主は新たな完全親会社(本件ではfreee)の株主に残ることもなく、完全にイグジットできます。

今回、現金対価株式交換が使われた真意は分かりませんが、おそらくは上記のファクターも関わっているでしょう。また、有価証券報告書を見ると、freeeには手持ちの自己株式がなかったことが分かります。対価を株式ではなく現金にすることで、自己株取得や新株発行等が不要になるメリットもあったようです。

やや煩雑な話になりましたが、こうしたスキーム選択も、関係者間の合意形成を図るうえでは重要です。Mikatus案件の開示情報からは、freeeのM&A担当部門に蓄積された豊富な知見がうかがえます。

M&Aでジョインした人材のキャリアパスづくり

見出しに「freeeに学ぶ」と書きましたが、この点はマネーフォワードの取り組みが進んでいます。今、同社のCSOを務めている菅藤さんは、グループ会社であるクラビスの創業者で、2017年にM&Aでマネーフォワードにジョインした方。M&A先の経営陣として活躍されています。

こうした実績があると、新たにグループに迎えたい企業の経営陣と交渉する際にも、きっと刺さることでしょう。マネーフォワードはこのほか、ソーシングからPMI(Post Merger Integration:買収後の統合プロセス)までの体制構築にも注力しており、専門人材を核として、社内関係者が機動的に連携しているようです。