激変するバックオフィス向けSaaSの版図、売り手も機敏な行動がカギに

freeeやマネーフォワードが積極的なM&A活用を続けていけば、クラウド会計領域、ひいてはバックオフィス領域全体のSaaS業界において、版図がどんどん変化していくでしょう。両社とも、今回のMikatusの対象でもある税務領域のほか、人事労務、勤怠管理など隣接領域へと、着々とカバレッジを広げてきました。

freeeのM&A実績 (freee「税理士向けサービスのMikatus株式会社、 freeeグループジョインのお知らせ 」より)
freeeのM&A実績  freee「税理士向けサービスのMikatus株式会社、 freeeグループジョインのお知らせ 」より)
マネーフォワードのM&A実績 (マネーフォワード「2022年11月期第1四半期決算説明資料」より)
マネーフォワードのM&A実績 (マネーフォワード「2022年11月期第1四半期決算説明資料」より)

freeeの直近の決算発表資料には、既存顧客へのアップセル/クロスセルの成約率は、新規顧客への成約率の2倍以上と書かれています。SaaSはクロスセルが成功しやすいことが証明されているからこそ、TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)の拡大競争が起きていると言えます。今後、成熟産業へと進化していくにつれ、ますます早い者勝ちの争いになるとすれば、M&Aもそれだけ加速していくと予想されます。

freeeと組むか、マネーフォワードと組むか、はたまた独自路線を歩むのか──バックオフィス向けSaaSの各プレイヤーは、遅かれ早かれこうした選択を迫られるでしょう。もし自社と似たプロダクトを展開する企業に先に動かれてしまったら、局面は厳しくなります。逆に言うと、2強のどちらにとっても手薄な領域をカバーしている会社は、最も防御価値が高く、バリュエーションが付きやすくなります。

ただし、ビジネスや組織の完成度が低すぎる状態では、一方の再構築原価が小さくなってしまうのが難しいところです。一定の顧客基盤、生産性の高い組織など、それなりの時間をかけなければつくれないものが買い手にとっての魅力になるためです。

変数の多い複雑な判断ですが、買い手や競合の動きを予測し、先手を打っていくことが勝ち残りのカギになります。ぜひ他業界の動向なども参考にしながら、自社の強みを最高に活かせる戦略を練っていただければと思います。

ココがポイント!

 

①市況の悪化でリターンが見込みづらくなり、VCからの調達のハードルが上がる中、SaaSスタートアップは代替となるファイナンス手段を求めている。これまでSaaSスタートアップに出資してきたVCにとっても、出資先のIPOに代わるイグジット手段が必要となり、SaaSスタートアップの成長を支えるパートナーとして、事業会社への期待が高まっている。

 

②強力なライバルが存在する、あるいは出現する可能性のある市場であれば、M&Aのチャンスにしっかり備えておくことが、いざという時のアドバンテージになる。手元資金は潤沢に確保しておきたい。

   

③バックオフィス向けSaaSのように競争の激しい領域では、M&A検討にあたり、再構築原価と防御価値が考慮される。売り手は買い手の思考回路を想像しつつ、自社の競合の動きも予測して、機敏に立ち回ることが勝ち残りのカギになる。