freeeとマネーフォワードのARRおよび従業員数
freeeとマネーフォワードのARRおよび従業員数 参照元:2社の決算説明資料およびコーポレートサイト

備えあれば良縁あり? M&A巧者freeeに学ぶ4つの“備え”

戦略面に加え、M&Aプロセスをスムーズに進めるための実務面に関しても、freeeは学ぶべき点の多い企業です。以下4つの軸に沿って見ていきます。

①賢い調達で軍資金を確保

②IRのガイドラインをクリア

③最適なスキーム選択ができるノウハウの蓄積

④M&Aでジョインした人材のキャリアパスづくり

賢い調達で軍資金を確保

ターゲット企業の状況や競合の動きを見ながら、タイミングを逃さずM&Aやアライアンスをオファーするためには、当然ながら軍資金の確保が不可欠。スピーディーに動ければ、それだけ自社の希望条件を出しやすくなります。また、M&Aアドバイザーから見ても、手元資金が潤沢な買い手には優先的に売り手を紹介したくなるため、ソーシングの効率も上がるはずです。

多くのSaaS企業は上場時に調達した後、大きな調達を実施しないまま市況の崩壊を迎えています。この点、freeeのアクションは見事の一言。2019年12月に上場後、2021年2月の株価の上昇局面をとらえ、3月に海外公募増資を行い、352億円を調達。対するマネーフォワードも、2017年9月に上場後、2018年12月には66億円、2020年1月には47億円、2021年8月には312億円、累計425億円を海外公募増資で調達しています。

強力なライバルが存在する、あるいは出現する可能性のある市場であれば、いつやってくるか分からないM&Aのチャンスにしっかり備えておくことが、いざという時のアドバンテージになります。freeeやマネーフォワードの大胆なアクションは、今の市況下ではなおさら、その価値が光って見えます。

M&Aの機動性を保つという観点においては、事前に一定の資金を持っておくことが非常に重要になります。財務の柔軟性を担保するという言い方もできると思います。成長の機会や手段を得られることがわかっているのに財務が制約となって本来できるはずの成長が妨げられる、という事態は避けるべきことです。こうした状況にならないよう将来の道筋を確保しておくことは、ファイナンスチームとして果たすべきことと考えています。

金融ナビ:【インタビュー企画】freeeのファイナンス統括に聞く!
「海外公募増資352 億円の道のり~「健全な懐疑心」で慣習の壁を乗り越える

IRのガイドラインをクリア

IPO後に大きな調達をしたSaaS企業が稀な背景には、公募増資を行う際に日本証券業協会のガイドラインに沿って「具体的な資金使途」を記載しなければならず、制約が厳しいことも関わっているようです。2021年3月の海外公募増資の際、freeeは「潜在的なM&A」を主な資金使途としています。しかし、この表現ではガイドラインの規準を満たさないと判断されたと見られ、「海外募集による新株式発行及び株式の海外売出しに関するお知らせ」上には、「新サービス及び機能の強化、あるいは顧客獲得を企図した買収、出資、事業立ち上げ等の投資に係る資金」と記載されています。この事例は、経済産業省『スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス』(2022年4月)でも紹介されており、今後はガイドライン自体も見直しが進んでいくかもしれません。