実際、freeeやキャディとは、バリュープロポジションやPMF(プロダクト・マーケット・フィット。プロダクトが市場にもとめられているかどうかの検証)について創業前も含めて1年以上話し合った後に投資に至ったのだそうだ。

この期間の長さというのは、早期の資金調達をねらう起業家にとっては相性の是非はあるだろう。だがDCMは創業期の指針こそが重要だと語る。本多氏は、「もちろんすべてのケースで投資までに1年、1年半といった時間がかかるわけでもない」とした上で、「資本政策は、どんな選択肢をとるかによってはあとで苦労する。それはプロダクトも同じ。家を建てるときには基礎工事が必要です。拙速に家を建て始めても10階までなら建てられるかもしれない。でも50階建てになると難しい。そういう事例を散見してきました」と説明する。

原氏も「スタートアップの成功は、創立1年くらいで決まります。もちろん戦略は変わりうるものですが。プロダクトができて走り始めてからそういうの(バリュープロポジションの変更)は難しい」と続ける。

投資家は「伴走者」ではない、「ピットクルー」であるべきだ

今回のプログラムにとどまらず、DCMはスタートアップとの関係性をどう考えているのか。本多氏はVCがよく語る「(スタートアップの)伴走者」という言葉に疑問を投げかけるかたちでこう語った。

「僕らは起業家の『伴走者』になろうと考えていません。『F1レーサー』と『ピットクルー』の関係であるべきだと考えています。レーサーは天候やタイヤのすり減りを感覚でこそ分かりますが、時速200kmで走っているので、詳しくは知ることはできません。それを支援し、優勝を請負うのがピットクルーです」(本多氏)

ものすごいスピードで走る起業家と一緒に走るのではなく、別の専門知識を持って支援に当たる。そのために起業家との価値作りに時間をかけるというのが同社の哲学だということだろう。今回のプログラムも、採択企業数を3〜5社としているが、互いの条件に合うスタートアップと出会えなければ、採択を見送る可能性もあるという。

昨年末からの市況の悪化を引き金に「スタートアップ冬の時代」ともやゆされる状況が続いている。だが市場からの距離が遠いことから、シード期のスタートアップにおいてその影響は極めて限定的だ(逆に上場直前のレイター期などは苦しい局面を迎えている)。競合VCや事業会社までもが殺到するシード期スタートアップのマーケットで、DCMはこれまで培ってきた知見を武器に「ピットクルー」としての真価をどのように発揮するのか。