同サービスには営業の流れと項目を標準化し、チェックリスト形式で表示する機能も搭載されている。この項目に社内のトップセールスの知見を“型”として盛り込むことで、チーム全体の営業の質の向上も見込める。担当者がチェックリストを上から順に埋めながら営業を進めていけば、データドリブンな営業に不可欠な情報が自然と記録されていく仕組みだ。

チェックリストに沿って上から順に項目を埋めていけば、自然とデータが蓄積されていく
チェックリストに沿って上から順に項目を埋めていけば、自然とデータが蓄積されていく仕組みだ

村尾氏がこのプロダクトを立ち上げた背景には、過去に在籍していた企業での経験が大きく影響している。起業前にはGoogleで営業統括部長を、freeeでも執行役員営業統括兼パートナー事業本部長を担うなど営業の面から企業の成長に貢献してきた。

Google時代に「グリーンティー」と呼ばれていた自社開発の営業ツールを試した経験は、村尾氏が後にMagic Momentを創業するきっかけの1つにもなった。このツールでは画面の上から順に顧客の名前が表示され、どのプロダクトをいくらで提案すればいいかまで提示された。転職先のfreeeでも顧客データを分析し、同じようなことを手動で実践していたという。

このような営業手法をさまざまな企業が活用できれば便利ではないか。そう考えて開発したのがMagic Moment Playbookだ。2021年1月のローンチ後、LINEや旭化成、USENグループなどの大企業を筆頭に数社がサービスを導入。同年4月には6.6億円の資金調達も実施し、事業を一気に加速していく計画だった。

SMBからの引き合いが増えるも「ほとんどが解約」

ただ、そこからの数カ月は思い描いた通りにはいかなかった。調達直後からスタートアップやSMBからの引き合いが増え、導入が進んでいったものの「そのほとんどが最終的にはチャーン(解約)していった」(村尾氏)という。

「振り返ると大きく2つの理由があったと考えています。1つはそもそも製品として(機能面など完成度が)足りてない部分が大きかったこと。もう1つはサービスのコンセプトがSMBの方々に全く受け入れられなかったことです。Googleやfreeeでの経験から『営業はこれからこういう世界になっていくはず』と未来を志向し、そこから開発したものだったので、(現段階では)サジェストや自動化といった考え方が押し付けがましかったのだと思います」(村尾氏)

村尾氏によると、実はSMBこそ営業が属人化していた。特にアーリーステージのスタートアップなどは少ない人員で大きな成果を生み出さなければならない。“スーパースター”のような人材が、独自のやり方でSFAツール(営業管理ツール)などをカスタマイズしながら仕事をこなしているようなケースも珍しくなかった。