鈴木聡子氏(以下、鈴木):前提として、私たちはスタートアップの中でも、経営の中核を担う幹部層人材の紹介をしています。その上でのお話ということをご理解いただきたいのですが、日本の転職市場自体は、流れで言えば明らかに転職者数が増えているというのは皆さんご理解いただいてると思います。

新型コロナウイルスの影響で人材の流動性が弱まった時期はありましたが、2018年の1年間と2022年の現時点(編集部注:インタビューを実施した10月)で比べても、全体の転職者数は3.8倍になり、21年4〜9月に大企業からスタートアップに移った件数は、18年の同時期と比較して7.1倍にまで市場は拡大しているとエン・ジャパン運営 「AMBI(アンビ)」さんからも発表がされています。

新型コロナの感染拡大以前、当社で転職をご紹介した実績は年間400件程度でしたが、2022年はすでに500人の転職をお手伝いしています(2022年1月〜9月実績)。直近では資金調達環境の変化に伴い、採用ニーズはやや減少傾向にあるものの「提示年収を上げてでも獲得したい人材を採用する」意向を示すスタートアップが増えています。当社においても2022年度のご紹介単価は過去最高を更新しています。

──増加の理由は?

鈴木:コロナ禍によって、多くの企業は働き方にスピーディーな変化を求められました。ですが、その変化のスピードについていけない企業も少なくありませんでした。社会の変化についていけない自分の会社に違和感を抱き、「安定」を望んで大企業にいた人が、「柔軟性」を求めて船を乗り換えてスタートアップにやってきているということが背景にあるのではないかと考えています。

フォースタートアップス タレントエージェンシー本部マネジャーの鈴木聡子氏
フォースタートアップス  コミュニケーションデザイン 専門役員/タレントエージェンシー本部マネジャーの鈴木聡子氏

──大企業からスタートアップへの転職における、「収入の低下」は気にならないものでしょうか。

鈴木:実はフォースタートアップスでの転職支援では平均年収は大手企業の水準と遜色なく、むしろ上昇傾向にあります。それには2つの理由があります。

1つめはスタートアップの資金調達額が増えていること、2つめはスタートアップの競争先が国内企業から海外企業へと変わってきたということです。

かつては数千万円の資金調達であってもスタートアップ業界の関係者の間で話題になっていました。ですが今では数億円という数字を見かけることも少なくありません。場合によっては、数十億円の資金調達を実施するスタートアップも出てきています。その資金をマーケティング、開発、そして人材獲得に投下しています。