法規制で勢力図に変化、業界は戦国時代へ
冒頭で触れた通り、有機フッ素化合物に関しては欧米を筆頭に規制が進む。例えば米国カリフォルニア州では、2025年に有機フッ素化合物を用いたアパレル用品が販売できなくなる。EUやAMPHICOが本拠地を構える英国でも、関連する規制の整備が急速に進んでいる状況だ。
アパレルブランドにおいて新たな素材のニーズが高まれば、今までの勢力図がガラッと変わる可能性もある。AMPHICOのようなスタートアップにとっては千載一遇のチャンスとも言えそうだが、「決してブルーオーシャンではない」と亀井氏は話す。
「既存のプレーヤーは存在しますし、彼らも既存の商品が使えなくなることは当然把握しています。実際にWLゴア&アソシエイツなどは(この規制に対応するための)新たな商品を投入してきていますし、いろいろなイノベーションを起こすための研究開発にも取り組んでいる。ただ前提として重要なのは、物事が大きく変わっているタイミングだということです」
「もし規制などの変更がなければ、透湿防水テキスタイルを購入しているブランドは今までと何も変える必要もありませんでした。でも規制が入ることにより、新しいものにシフトする必要性がでてきた。新しい素材に関しては既存のプレーヤーのアドバンテージも下がりますし、どこから購入する場合でもブランド側には切り替えるコストが発生する。そういった意味ではスタートアップでも参入しやすい側面はあると思います」(亀井氏)
とは言え競争環境などの点から見れば、ブルーオーシャンではないものの「レッドオーシャンでもない」という。
例えばアパレル業界で大きな潮流となっている「ヴィーガンレザー」の領域では、関連するスタートアップだけでも世界で数百社が存在する。一方で防水素材の世界だと「スタートアップに限っては2社程度しかなく、既存のプレーヤーで研究開発に力を入れているところも数社くらい」というのが亀井氏の見立てだ。
「ゴアテックスのような強力なプレーヤーがいたことで、必ずしも競争がものすごく激しい市場というわけではありませんでした。この市場は日本円で3000億円ほどの規模と言われています。スタートアップにとっては大きな市場ですが、巨大なプレーヤーからすれば小さい。わざわざこの透湿防水の市場だけを取りにいくために、新たに独自のR&Dをするというメリットもあまりないんです」(亀井氏)
そのような歴史もあり、まだまだ変革できる余地が多く残されている。実際に「フッ素フリーで100%リサイクルできる素材」の選択肢自体がまだ少なく、AMPHICOでは「素材の性能やそのポテンシャルに価値を感じてくれた企業」とR&Dを進めている状況だ。