近所づきあいと同様に人々の所属場所であった会社も同じようにその機能が薄まりました。 今や「社員は家族と一緒だ」「社員一丸となってがんばろう」という言い方をすると、「それはパワハラだ」と批判されてしまいます。

企業に属する社員という立場より個人としての生き方のほうが尊重されます。終身雇用制度も崩れ、副業や転職も当たり前にしますから、社員は会社への帰属意識なんてもちません。
 
核家族化が進んでいるのは言わずもがなで、もともとアイデンティティを満たしてくれていた①家族②ご近所③会社という三大所属先がすべて希薄化し、「どこかのグルー プに所属したい」という所属欲求を満たすことを消費活動にも求めるようになってきているのです。

世界の若者の「日本のオタク化」

アイデンティティの置き場所が企業やインフルエンサーのネット上のコミュニティに移行しているのは世界的な流れです。
 
近年、世界中の若者も日本人っぽくなってきています。より正確に言うと、日本のオタクっぽくなってきているのです。
 
2015年にTwitter社に遊びに行ったときに「世界の中で日本だけが一人で複数のアカウントを使い分ける人が多いんだけど、なぜ?」と質問されました。
 
そのとき「日本は、人と人とのつながりが強く同調圧力が高いから、ネットの中ではリアルの人格とは別の人格を作って、自分の好きを探求しやすくするんだよ」という話をしました。それが2018年になって彼から「アメリカでも複数アカウントを使い分ける若者が増えてきたよ!」と言われたのです。
 
彼ら彼女らは90年代後半以降に生まれた「Z世代」で、中学生のときには、TwitterとiPhone が標準装備になっています。つまり誰かとつながっているのが当たり前の世代です。
 
個を大事にするというアメリカですら同調圧力が強くなり、社会人になり始めたときに自分の「好き」は別アカウントで追求する「オタク化」が起き始めてるのかな? と彼と話しました。
 
今の人の価値観に影響を与えるのは、生まれたときの経済状況や親の価値観など様々なものがありますが、特に大きな影響を与えるのは「いつネット上で人とつながるようになったのか」です。団塊ジュニアは社会人になってから初めて自分のメールアドレスを取得し、インターネットで人とつながりました。
 
ミレニアル世代は社会に出る前、大学生のときにインターネットとつながりました。そのため、「新しいこと、楽しいことはネット上にある」という価値観をもっています。
 
だからこそ、ネットにつながっていないと自分だけが取り残されてしまうのではないか、という不安感を覚えてしまいます。これはFOMO(Fear Of Missing Out)と呼ばれ、SNS病の1つとされています。