国内新興市場とナスダック上場企業の日米比較
国内新興市場とナスダック上場企業の日米比較 (拡大画像)

グロース・キャピタル代表取締役社長/CEOの嶺井政人氏は、そもそもナスダックと日本の新興市場で上場時の企業規模や時価総額に違いがあることや、最近、公正取引委員会が調査に乗り出したように、日本では公開価格と初値に差があるといった事情があるとしつつも、日米での成長率の違いが顕著だと説明する。

ナスダックにおいては、IPO直後期末で時価総額1000億円未満だった会社のうち9社は直近で時価総額5000億円を超えており、うち2社(Sunrun、Fiv9)は時価総額1兆円を超えているのだという。一方、日本ではメルカリとペプチドリームが時価総額5000億円を超えたが、まだこの10年で新興市場から時価総額1兆円企業は生まれていない。

ナスダック高時価総額企業一覧と、国内新興市場とナスダック時価総額での比較
ナスダック高時価総額企業一覧と、国内新興市場とナスダック時価総額での比較 (拡大画像)

レポートでは上場ベンチャーの成長を妨げる要因として(1)上場前後の急成長期に将来への成長投資を絞り、成長のポテンシャルを減らしてしまう、(2)上場後、経営人材やベンチャーマインドのある人材の採用が難しくなる、(3)多くの経営者が上場企業の経営経験がなく、手探りで上場後の経営を行っている、(4)目線の違う個人投資家、初めて対面する機関投資家とのコミュニケーションの難しさ──という4点を挙げるそして課題解決のために、産官学での議論や連携が必要だとした。

日本のスタートアップの上場後の成長を阻害する主な要因とその課題解決への提案
日本のスタートアップの上場後の成長を阻害する主な要因とその課題解決への提案 (拡大画像)

鈴木氏、嶺井氏には今回のレポート発表に合わせて、(1)今回のレポートの結果をどう見るか、(2)上場後に企業が価値を上げるため行うべきアクションについて、本誌から尋ねている。以下に回答を掲載する。

鈴木氏
【問1】成長余地が多いはずの小規模IPO企業においてNASDAQ企業と比べ日本のIPO企業は成長率が低いです。これは日本の小規模IPOがIPOの利点を生かし切れていない可能性があります。

 

成長率のバラつきもNASDAQの方が大きいことからは、NASDAQに上場する企業がリスクを取ってチャレンジしていることを示唆する結果といえます(リスクとリターンは正の関係にありますので、大きな成長にはリスクを取らなければならないという考えと整合的です)。

 

【問2】企業の急成長はNPV(Net Present Value:正味現在価値)が正の投資案に投資をすることで成長するわけですが、要はリスクを取って勝負に出れるかどうかかと思います。長期的かつ柔軟に高い視座を持ち、投資家・債権者などから十分な信頼を獲得し、勝負できる環境を整えることができることが望ましいです。

嶺井氏
【問1】上場後の停滞は、日本からイノベーションを起こし、新産業を生み出す上で、大きな課題です。日本に、世界一上場しやすいと言われるマザーズ市場があることは、日本のスタートアップにとって、大きなメリットです。

 

しかし今回の研究結果では、上場を通じて資金調達や信用力獲得を早いフェーズで行うことができるメリットを日本のベンチャーが活かせていないことを示唆しています。

 

ここまでベンチャーの上場後の成長停滞を「IPOゴール」などの言葉で揶揄することはあっても、その構造的課題が真剣に議論されることはありませんでした。

 

上場後の成長は今まで議論が行えていなかった、日本の大きな伸びしろとも言えます。この10年で上場ベンチャーが数多く生まれ、そこには上場まで辿り着いた優秀な経営陣や、事業が何百とあり、大きな成長ポテンシャルがあります。

 

【問2】自社の成長戦略をステークホルダーに伝え、上場前から中長期目線での成長投資を行っていくことが重要です。

 

しかし今回レポートで発表させて頂いたように、上場前後において中長期目線での成長投資を行いづらい構造的課題があります。これらはスタートアップだけで解決できることではないため、関係者が共にこの構造的課題に向き合う必要があると考えています。