洋菓子メーカー・モロゾフが運営する焼き菓子専門店「ガレット オ ブール」の商品洋菓子メーカー・モロゾフが運営する焼き菓子専門店「ガレット オ ブール」の商品

洋菓子専門店「ガレット オ ブール」や居酒屋「鮨 酒 肴 杉玉」の運営会社をご存知だろうか。企業が、広く知られた自社の社名やブランドを「あえて隠す」戦略が奏功しているという。その裏事情を明かす。(イトモス研究所所長 小倉健一)

「隠れモロゾフ」が大成功
なぜ社名をあえて隠すのか

「ブランド」をどう扱うかについて、興味深い企業戦略が進行中だ。

 洋菓子の製造・販売を営む「モロゾフ」(洋菓子のモロゾフ)は、2026年1月期までに、焼き菓子の売り上げを現状より3~4割(30億円)増やす中期計画を発表した。その売り上げ増戦略の中核をなすのが、モロゾフという社名をあえて隠した洋菓子専門店「ガレット オ ブール」だ。

 長い時間を経て強固に作り上げてきたはずのブランド(社名)を「あえて隠す」戦略は、企業戦略において、時々採用されるが、あまり日の目を見ることはなかった。

 今回は「あえて社名を隠す」ことについて述べたい。

 一般的に考えて、築き上げてきたブランドをわざわざ隠すメリットは、あまりないと考えられる。

 出版社では、たとえば、文藝春秋は、週刊文春WOMAN、週刊文春CINEMAなど、「週刊文春」を冠した雑誌を作っている。週刊文春もそもそも「月刊文藝春秋」から作られたネーミングであり、月刊文藝春秋を出版しているのが文藝春秋というわけである。ダイヤモンド社が発行するのは週刊ダイヤモンドに、ダイヤモンド・オンライン、ダイヤモンドZAi。プレジデント社も、雑誌プレジデント、プレジデントオンライン、プレジデントウーマンなど、社名を冠した雑誌・メディアを発行・運営をしている。

 私がプレジデント社に在籍していたときに、プレジデントウーマンという雑誌を立ち上げるときになって、当時の社長に「プレジデントウーマン」という名前にしたいが、どう思うかと聞かれたことがある。

 私は「プレジデント読者である女性に対して作るのだから、当然プレジデントウーマンがいいと思う。広告も売りやすいのではないか」と返答した。おそらく、違う名前も検討されていたのだろうが、結果的に、プレジデントウーマンという名前になった。

 社名を、次のビジネスのサービス名を付けるメリットを整理すると、以下のようになるだろう。

1.顧客からの信頼性が得られる
 すでに市場で認知されている企業名を使用することで、新しいサービスや店舗に対する信頼性を高めることができる。

2.マーケティングの効率化
 特に、同じ顧客(もしくは顧客の一部を共有する)をターゲットにしているサービスを始めるのであれば、マーケティング活動におけるコストと労力を削減できる。広告やプロモーションの際に、一貫したメッセージやデザインを使用できるため、効率的にブランドを強化できるというわけだ。

3.顧客のクロスセル機会向上
 同じ企業名が複数のサービスや店舗に連携されている場合、既存の顧客に対して他の製品やサービスを推薦しやすくなるだろう。

 こうしたメリットを差し置いて、企業が、社名をあえて隠す戦略を採用するのはなぜだろうか。