「生徒や親が期待した通りの成果を出すというところで、ちょっと苦しみましたね。そもそも、テストの点数を上げることにコミットするのが嫌だったし、意味ないって思っているんで。意味ないことを一生懸命やるのはつらいじゃないですか」

コロナ禍以前の探究学舎(画像提供:探究学舎)

三鷹に探究型学習の金字塔を打ち立てよう

テスト対策に疑問を持っていた宝槻は、少しずつ探究型の学習にシフトさせた。その大きな後押しになったのが、2014年に出版した書籍『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』だ。

学生時代に書こうとしていた本は、自分が主人公だった。そうすると、どうしても自慢話のようになってしまう。そこで、この時は父親を主人公に据えて、宝槻家のユニークな教育を面白おかしく書きながらも、教育の本質とはなにかを問いかける内容にした。この本がヒットしたことで、塾は探究型学習の理解を得やすくなった。

まずは小学生の授業で「宇宙編」「元素編」「経済金融編」「戦国英雄編」というテーマごとにクイズやゲーム、実験、映像、音楽などを駆使した探究型学習の割合を増やしていった。同時に中学生と高校生の新規募集をやめ、小学生だけになったのが2016年ごろのこと。そこからさらに従来の「お勉強」の時間を削り、2018年には完全にゼロになった。

この時にはすでに探究学舎は教育業界で話題になっており、週1回の授業で月額2万円と高額ながら、生徒数は三鷹の校舎で収容できる最大人数の500人に達した。2018年の夏休みには、誰でも参加できる授業「探究ツアー」を開催し、1500人を集客した。これだけ注目されながら、教室を増やさなかったのは理由がある。

「ずーっと考えていたのは、ともかく三鷹に金字塔を打ち立てようということ。それなくしてスケールはないと思っていましたね。探究学舎でしか体験できない授業があって、かつそれを噂で聞いて参加した人が『うわ、これは本物だ』と衝撃を受ける。でも、その授業は三鷹に来ないと受けられない。伝説のクリニックみたいな感じになることを目指していました」

子どもたちを盛り上げる宝槻氏(画像提供:探究学舎)

1万5000円で授業をオンライン配信

迎えた2019年3月、人気番組『情熱大陸』に取り上げられたことで、宝槻と探究学舎の名前は瞬く間に全国に広まった。これで「金字塔を打ち立てた」と感じた宝槻が、次のステップとして始めたのがオンライン化だった。

冒頭に記したように、その10年前の2009年、宝槻はオンライン学習の事業化に失敗して手痛いダメージを被っていたが、頭のなかにはずっと「俺の授業を全国に届けたい。そのためには、インターネットしかない!」という想いがあった。