ジョブズのメッセージに自分を重ね合わせたのか、宝槻は時折涙ぐみながら、ジョブズの歩みや言葉を紹介していった。ユーチューブでの配信が始まった頃、約2700人だった視聴者は、1時間あまりが過ぎ、配信が終わるころには4000人に達していた。

翌日以降も、授業は続いた。配信前、約1万人だった探究学舎のチャネル登録者は、最後の配信を終える頃、4万人になり、通算での再生回数は52万回を超えた。

24歳の時のアイデアを実現する

振り返ってみれば、収益も何も考えずにスタートしたこの15日間が、探究学舎のその後の運命を決めた。4月に入り、新型コロナウイルスの感染がさらに深刻化し、学校では教室での授業ができなくなった。未曾有の危機に、宝槻は腹をくくる。

「探究学舎のすべての授業をオンラインに移行しよう」

4月7日、最初の緊急事態宣言が発令された日、オンライン授業「海洋生物編」をリリースした。月額1万円のコースで、募集枠は1000人。これが1日で満席となる。キャンセル待ちが殺到したため、600人の追加枠を用意したところ、これもすぐに完売した。そして今、オンライン授業の受講生は約2300人に達している。

しかし、宝槻はこの数字に満足していない。オンライン授業を1年半続けてきて、課題が明確になっているからだ。

「今は2カ月に一度、テーマを変えています。それでも継続率は90%ぐらいなんですが、ひとつのテーマで満足したユーザーの10%ぐらい、だいたい200人が離れています。新たに募集するとその分は埋まるのですが、今後は継続して受講してもらう仕組みが必要で、今、作っているところです。うちの認知度は、今10万人くらいかな。それが10倍になったら、日本の教育がちょっと変わってきたかもって思える数字ですね」

それはいつ頃ですか? と尋ねると、宝槻はさらりと言った。

「3年から5年。その後は違うことをやります」

違うこと?

「はい。全国津々浦々に、寺子屋のような探究学舎の小さな箱を作ります。そこを地域のコミュニティにしながら、オンラインとリアルのコミュニケーションが融合された形で探究学習をさらに広げていきます。なにかしらの専門性を持った1000人ぐらいの大人に先生として登録してもらって、子どもたちがリアルでも、オンラインでも自分が好きなものを学べる場にします。探究学習のポータルサイトになって、生徒と講師のマッチングをするんです。そうすれば、子どもたちも全国に同じものが好きな仲間ができる」