『DUNGGEON ENCOUNTERS』のトレーラー

日本ではファミコンから本格的に始まった、家庭用ゲーム機向けソフトのビジネス。そこからの進化の中でも、特にPlayStationシリーズやXboxシリーズは、グラフィック性能を向上させてきた歴史だと言っても過言ではない。たとえばPlayStation 5(以下、PS5)を買ったユーザーは、PS4では実現できない「PS5ならでは」のソフトを要求する。この「ならでは」に含まれるものは、ずばりグラフィック面だ。

ゲーム機が高性能化するほど、要求されるグラフィックの精細さが高まる。それに伴ってグラフィック担当者の人件費も増加するため、ゲームソフトビジネスの採算分岐点はどんどん高くなっている状況だ。その結果、ゲームソフトは多額の予算を投じた大作が中心となりつつある。万が一でも売れなかったというリスクを回避するため、ヒット作の続編が増えがちなのも、こうした要因によるものだ。

今、ゲームメーカーは発売するソフトのタイトル数を厳選する傾向にある。これは過去記事の「なぜ発売後2年以上のゲームソフトがいまだに売れるのか?」でも説明した通り。

しかし、考えてみてほしい。グラフィッカーの人件費が制作原価を圧迫していることが明確ならば、この制作費を抑えればハイリスクなビジネスから脱却できる。スクウェア・エニックスが3520円で発売したこの2本は、まさにグラフィッカーの開発費を抑えた実験的な作品だったのだ。

グラフィッカーの人件費を下げながら、それをポジティブに伝えるゲームデザイン

同社が発売している『ファイナルファンタジー(FF)』シリーズは、世界最高レベルの3DCGが特徴でもある。開発中の最新作『FF XVI』も高性能機のPS5ではどんな表現を見せてくれるのかと、世界中のファンが期待を寄せている。そんな状況下でスクウェア・エニックスが発売した新作RPGはどこでグラフィッカーの人件費を削減したかといえば、ずばり3DCGの使用を極端に抑え、2Dイラストを使うようにしたのである。

両ソフトともに、戦闘シーンは静止画のイラストを動かし、攻撃やダメージの表現を行っている。地形(フィールド)の表現も、『DUNGEON ENCOUNTERS』では羊紙のテクスチャの上に描かれた枠線。『Voice of Cards ドラゴンの島』では、各マス(カード)に描かれた森などのグラフィックをたくさん並べるという、レトロゲーム感のある地形表現だ。

単にグラフィックがチープになっただけなら、ユーザーから失望されてしまう。しかし「あえて、こういう表現を選んだ」とユーザーに納得してもらえるなら、好意的に受け止めてもらえる。どちらのタイトルも、この難関なミッションに挑戦し成功しているのには「さすがはスクウェア・エニックスによるプロデュース」とうならされた。