狂乱バブル ホテル大戦争#27

人手不足が深刻化するホテル業界において、あらゆる手段を尽くして人材を確保しようという動きが各社で出ている。待遇改善策としては、初任給を26万円に引き上げるホテルもあるが……。特集『狂乱バブル ホテル大戦争』の#27では、ホテル業界が抱える人手不足の処方箋に迫る。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

ホテル業界の平均年収は400万円下回る
低賃金が人手不足を招く

 新型コロナウイルスの感染拡大によって需要が蒸発し、苦境に立たされたホテル業界では、ホテルで働くスタッフ「ホテリエ」が大量に流出した。ホテリエとして誇りを持って働く優秀な人材が、「コロナ禍は緊急事態」として泣く泣く去るケースも少なくなかった。コロナ禍が明ければ、多くはホテリエとして復帰してくれると期待する向きもホテル業界にあった。

 しかし、現実は甘くなかった。新型コロナの感染拡大が始まってから、新型コロナが感染症法上の5類に移行するまで3年以上かかったこともあり、流出してしまったホテリエは予想以上に戻ってきていないのが現状だ。

 もともとホテル業界の待遇は、決して良いとはいえない。2022年の民間給与実態統計調査によれば、全業種の平均年収は458万円。これに対し、ホテル業界の平均年収は400万円を切っている。

 ホテリエは、1日立ちっ放しでマルチな仕事をこなすことも多く、宿泊客からのクレームもしばしば。肉体的にも精神的にもタフな仕事だ。ホテル業界を離れてみて、ホテリエに比べて業務量が少ない上、待遇の良い職場に移ってしまうと、ホテル業界で再び働くモチベーションを失った人が多かったのだ。

 人手不足の中でも、急増する訪日外国人旅行者(インバウンド)を中心に回復した需要に対応しようと、各ホテルは試行錯誤を続けている。

 世界五大ホテルチェーンの一角、米ヒルトンは単発で仕事を依頼する「ギグワーク」、いわゆる「スキマバイト」を導入している。ヒルトンの日本・韓国・ミクロネシア地区代表のジョセフ・カイララ氏は「ギグワークで大成功を収め、われわれは今のところ人材不足という問題は抱えていない」と胸を張る。ヒルトンの成功事例を受け、日系ホテルでもギグワークの活用が進む。

 人材不足への対応として主流なのは、限られたスタッフで対応できる客室分だけ販売することだ。稼働率を下げても客室単価を上げることで、各ホテルは収益を確保してきた。

 しかし、それでは収益の伸びは頭打ちで、稼働率も客室単価も伸ばすのが理想である。激しいホテル競争を勝ち抜くには、やはり優秀な人材の確保は避けて通れない。

 次ページでは、人材確保に奔走する各社の主な動きを紹介する。初任給を26万円に引き上げたり、幹部候補を月給50万円で呼び込んだりする動きもある。しかし、待遇改善だけでは人材確保の処方箋とはならないようだ。中堅ホテル首脳は、業容の拡大こそが人手不足解消に欠かせないと断じる。その真意とは。