平井大さんは、ストリーミングをうまく活かした形のリリースやマーケティングを実践しているタイプのアーティストです。数カ月にわたってコンスタントに曲をリリースしたり(2020年より2〜3週間に1度のペースで連続配信する企画を実施)、夏には7週連続で曲をリリースしたりするなど、曲を届け続けたことがこの結果に繋がっていると思います。

ストリーミングで単曲配信をコンスタントに続けていると(マーケティング)効果が高いことはずっと言われていて、レコード会社やアーティストにアドバイスを求められると、よくそういうことをお話ししていたんですが、それをここまで体現したアーティストはいませんでした。びっくりするような制作頻度で、なかなか他に例がない形だったと思います。

しかも平井大さんは、いろんなタイプの曲があるからいろんなプレイリストに入りやすいんです。エディターの目線から見ると、シチュエーション、シーズナル、ムードなどいろんなプレイリストに入れやすいファクターが平井大さんの曲にはあります。

曲のリリース頻度が高く、さらに曲の種類が多いことで、プレースメント(表示の場や回数)が上がって楽曲が聴かれる環境が整っていきました。

全アーティストがそれを真似して同じような成功につながるかどうかはわかりません。楽曲の魅力や平井大さんのアーティスト性が評価されたということでもあると思います。ただ、ストリーミングの特性(Spotifyのアルゴリズムや、ある曲と出会ってその曲をいいなと思ったらそのアーティストを掘り下げていけるというようなこと)を最大限に活かすという意味では、すごく効果的な施策だったと思います。

それで実際に聴かれたときに、曲がいいからユーザーが気に入って、どんどん興味を持って他の曲も聴いていく、というふうにつながっていったのだと思いますね。

──「国内で最も再生された楽曲」のランキング全体を見ても何かひとつの特定のジャンルや傾向が盛り上がっているといったことは言いづらいです。平井大さんのように1人のアーティストがさまざまなジャンルの曲を作り、また1曲の中にもさまざまなジャンルの要素が混ぜ込まれているというのが今の時代の傾向だと思います。

YOASOBIでいうと(作詞作曲を手がける)Ayaseさんがいろんな引き出しを持っていますし、ほかのアーティストではVaundyなどもそうだと思います。やっぱりデジタルネイティブな世代はいろんな曲を聴いて育ってきて、自分の得意なジャンルがひとつに決まっているというよりは、「ポップス」という大きなカテゴリーの中でいろんな引き出しを持っていて、作る曲によって開けるものが違う。