「私の父は異常」
そう気づいたのは小学生のとき

 小学生のとき、高戸さんは友達に、「うちのお父さんはやさしいよ」と言われたことがきっかけで他の家の父親のことが気になり、クラスメイトに父親のことを聞いて回った。すると、父親に暴力を振われたことのある子は一人もいなかった。

「私の父は異常だということに気付き、がくぜんとしました。祖父母も親戚も世間体ばかりを気にする冷たい人たちで、『子どもは親に孝行をするものだ』という考えで凝り固まっていましたし、父からかばってくれない母を信頼できない私には、他人を頼ることはできませんでした。

『私は経済的に自立するまで、異常な鬼父の住む家で暮らさなければならない』―その残酷な現実に大きなショックを受けました」

 やがて高戸さんは、自分の境遇について考えることをやめることにした。「考えるのをやめること」が、逃げることも一人で生きることもできない子どもだった高戸さんができる、唯一の対応策だった。

 高戸さんは現実逃避をするために、かわいいキャラクターグッズをお小遣いで買い求め、その世界に没頭するようになった。

 しかしそんな努力もむなしく、あるとき父親が高戸さんの部屋を訪れると、「あーあ! ガキは暇でいいよなあ! そんながらくた散らかしてんじゃねえ! 今すぐ捨てろ!」と言い、“宝物たち”を捨てさせた。

「父親に絡まれると私は、自分の命を守るフェーズに突入します。『これはゴミなんだ』と思考停止し、黙ってゴミ箱へ捨てました。以来、私は大切なものをコレクションするという概念がよくわからなくなってしまいました。恐らく、自分の大切なものを大切だと思える心までも鬼父にゴミ扱いされてしまったからだと思います」