徳力 難しいことから先にやったということですね。私は全日本DM大賞の最終審査員を務めているのですが、あれを見たときは本当にびっくりしました。
でも、冷静に考えてみると、たしかに閲覧されるか分からないメールよりも、ハガキの方が絶対に手に取って見られやすい。それは、実際に結果にも出ていました。では、メインシナリオの方は、小冊子DMですね。
石川 はい、小冊子DMでは、もっと本質的なCRMを実施したいと思っていました。ECに限らず通販全体がそうですが、みんなコンバージョンの手前まではすごく丁寧に接客するのに、購入した瞬間に手放してしまう。
「ロイヤリティマーケティングが大事だ」と言いながら、ロイヤリティを自分たちで全然温めていないんですよね。本質的なロイヤリティの醸成をしていないから、さっきも言ったようにECがコンバージョンの手前でしか利用されないのだというのが、僕の仮説です。
発想としては、量販店と戦う“街の電気屋さん”と一緒です。アフターフォローをきちんとするから、値引きをしなくても売ることができる。顧客はそちらの方がトータルのコストが安いと思えば買うし、高いと思えば量販店で買います。
そこで小冊子DMでは、購入した商品に似たアイテムを着こなしている写真をInstagramから抽出し、顧客ごとパーソナライズした小冊子として発送しました。
デジタルとの組み合わせでは、紙の相性がいい
徳力 おそらく通常のデジタル企業なら、そういう取り組みでは当然デジタルの「メールを送る」という発想になると思うのですが、ディノス・セシールはそこにアナログであるDMを組み合わせるんですね。
石川 そうですね。私にとっては、デジタルは大してパワーを持っていないということが前提になっていますから(笑)。
徳力 従来のデジタル企業がそれをできないのは、買った人に対して郵便を送ること自体がコストにしか見えないからですかね。
石川 そうだと思います。
DMは単価が高いがスケールさせやすい
徳力 話を聞いていておもしろいと思ったのは、デジタルとアナログの組み合わせというと、どうしても店舗や対面が真っ先に浮かんでしまうのですが、一番コストがかかるから意外にスケールしないんですよね。
一方でDMは、実はコストがデジタルに近く、1通の単価は高いけれどスケールさせやすい。だから、アナログとデジタルを組み合わせるのであれば、紙が最も相性がいいのかもしれませんね。
石川 はい、実際にいいんですよ。これは入社してから分かったことですが、店舗というメディアはプッシュには弱いんです。