米良 なかには理解していただけない人もいます。
徳力 個人的には、そこに企業のマーケティングにとってのヒントがあると思っているんです。従来のマーケティングは、企業が広告を通して、言わばスピーカー的に一方的に情報を発信して、それを受けとった消費者の一部に商品・サービスを購入してもらおうという流れが中心だったと思います。企業側が強いですよね。
しかし、クラウドファンディングは、どちらかと言うと、プロジェクト実行者側がその想いと共に「助けてください」と訴えて、支援者側から手を差し伸べてもらうコミュニケーションになると思います。そこに意識の違いがあって、大企業が従来の価値観のままクラウドファンディングを利用しても上手くいかないように思います。
米良 そこは応援という文脈が強いことを説明して、「こんな課題があって、その問題解決を一緒にしよう」というコミュニケーションを推奨しています。そうすると、支援した人から「こんなプロジェクトを始めてくれて、本当にありがとう」といったコメントが寄せられるんです。
例えば、コニカミノルタさんは、女性の月経(生理)がはじまる前の数日間(3~10日)から起こる心身の不調を起こす症状「月経前症候群(Premenstrual Syndrome)」の改善に向けたセルフモニタリングツールのクラウドファンディングを実施して、プロジェクトを成立させています。
一方で、「こんなイノベーティブな商品が生まれました!」とユーザーの期待を煽るようなコミュニケーションは、あまり勧めていません。というのも、期待値を下手に上げてしまうと、それを上回るものを提供することが難しく、持続的な支援にならないからです。
徳力 従来、大企業は、「うちの会社の高い技術力から生まれた完ぺきな商品を買ってください」というコミュニケーションに慣れていますよね。そこからすると、ある意味、クラウドファンディングは、弱みをさらしているように見えて、広報部門に怒られてしまいそうです。戸惑う担当者の方も多いのではないでしょうか。
米良 大企業でも新規事業や先進的な取り組みをされている柔軟な方がフロントに立たれる場合が多いので、そこまで戸惑いはないかもしれません。
徳力 そういう人でないと、そもそもプロジェクトをしないということですね。
米良 どちらかと言うと弱みというよりも、企業や商品が目指している世界を発信して、そこに共感してくれる人を味方につけて製品をつくっていくという発想です。