さらに浮舟の場合、はなから異母姉・大君の“形代”として求められていることを、薫は、本人が聞いているそばで公言し、母・中将の君もそれと承知で、娘を薫に差し出す気持ちになっている。
あげく浮舟は、薫と匂宮との板挟みになって、自殺を図り、僧尼に助けられたあとも、
「私は命をとりとめても“不用の人”なので、人に見られないようにして、夜のあいだに、この宇治川に落として下さい」
と泣くというようなところまで追いつめられます。彼女はしかし、最後には念願の出家を遂げ、男からも逃れることになる。
大塚ひかり 著
出家した浮舟は、
「これで世間並みの結婚をしなければと思わずに済んだことこそは、ほんとに素晴らしいことなのだと、胸がすっきりする心地がした」(“世に経べきものとは思ひかけずなりぬるこそは、いとめでたきことなれと、胸のあきたる心地したまひける”)(「手習」巻)
と、描かれます。結婚せずに済むと思うと、初めて心が晴れるのです。
ほかの女の身代わりとして男に愛された女は、総じて男との関係に苦しんでいます。
『源氏物語』では、男と関係すること自体が「苦」とされているふしがあるのです。