マスを攻撃し続けるグループはデメリットとして「死亡率を減少させない」ことと「過剰診断」を挙げる。見つけなくても害がない腫瘍を見つけて、心身に害を及ぼす治療をしていると指摘し、厚労省に中止を働きかけた。

問題は過剰診断ではなく過剰診療
待たれる「小児がん検診」の再開

 だが、檜山氏も家原氏も反論する。

「問題視されるべきは過剰診断ではなく過剰診療。マスが行われていた頃は、医者側が間違った認識を持っていました。がんがあったら必ず取らないと治せないとか、必ず化学療法しないといけないとか。今は、1歳以下で見つかった場合には手術も抗がん剤も行わず、様子を見ることが標準治療になっています。

 かつての治療を過剰診断と非難するのは後出しジャンケンのようなもの。当時はそれがベストだった。同様に、今から50年後は現在の医療を過剰と言うかもしれないし、もっと違う話になるかもしれない。昔のことを批判するのはおこがましいと私は思います」(家原氏)

「マスの事業によってこの腫瘍の本体が明らかになり、今に生かされていることは間違いありません。医療は歴史の積み重ね。たとえば、かつて胃潰瘍に対し外科的に胃の3分の2を切除していた時代はそれなりに外科の合併症や術死もあったわけですが、今は胃酸を抑える薬で治癒するので胃切除は行いません。これは過剰診断でしょうか。

 歴史を度外視して、かつての検診や医療を非難すること自体がナンセンスと私は思っています。こうした医療の積み重ねが今の医療を作っているし、将来の医療も変えていきます。今に、ゲノム診断から罹患リスクの高いグループが特定されるようになると、マスは復活するかもと思っています」(檜山氏)

 檜山氏によると、マスを活用して早期発見・早期治療できるようになった場合、年間の事業費は2000万円程度(乳幼児健診の項目に加えた場合)。一人救うのに100万円もかからないという。ちなみに中国では近々、神経芽腫マス・スクリーニングが実施されるようになるらしい。そこで確かなメリットが証明されたら、日本にも逆輸入されるかもしれない。

 03年の休止から20年。年間26人が生命を落さずに済んでいたかもしれないということは、休止か再開かの様子を見ている間に、500人以上の生命が失われたことになる。

 20年前の決定が間違っていたことを、今さら責めようとは思わない。ただ、速やかに正してもらいたい。これから生まれ来る生命を守るために、有効性が高く、痛みも副反応もゼロ、1人当たりの検査費用は800円程度とコスパ抜群なマスを、なんとか再開してもらいたい。

(取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美)