これは要するに、マスが休止された03年時点では、「治療しなくても自然に消える(退縮する)腫瘍」と思われていた赤ちゃんの中に、その後、悪性度が高くなって死に至っていた子どもがいるということ。

 それだけではない。

「かなりの割合で、子どもたちは診断されない神経芽腫を持っていることも分かりました。新生児に至っては、100人に1人の割合で、神経芽腫の細胞が副腎の中にいると言われています。知らないうちに腫瘍が出来て、知らないうちに消えているんですね。(この結果を受けて)それまでは、見つかった神経芽腫は全部治療していたのですが、今は欧米でも日本でも、1歳以下で、血液検査をしても遺伝子異常が見られない場合には治療しないことになっています」

 マスは、世界の神経芽腫治療を進化させたのである。

宿題はコンプリートされたが
いまだに再開の話は出ない

 家原氏ら京都府立医科大学の小児科学教室も、患者の血清および腫瘍から抽出したDNAを用いた診断方法の確立によって、手術なしで腫瘍が悪性なのか自然退縮するタイプなのかを明らかにし、その後の治療効果の確認や再発の有無の確認にも利用できる方法を実用化しつつある。

 全国の小児がん専門医の尽力により、日本の低リスクの乳児神経芽腫に最小の侵襲で最大効果が得られる治療法の開発も進んでいる。マスを受けるのは生後1歳半が最適ということも分かった。

 マス再開の条件として厚労省が提示した宿題は、今ではすべてコンプリートされたと言っていい。だが、再開の話は出てこない。

「我々はLancetに論文が掲載された後、再開に向けてよりクォリティの高い研究をするために、前向きコホート調査をやらせてほしいと厚労省に申請しました。でも返事はNOでした。理由はわかりません。有効性がきちんと証明されてしまったら、今度は『なんで休止したんだ』と責められるからじゃないですか」

 檜山氏は苦笑いする。