転院が巻き起こした、思わぬ場外乱闘

 しかし、事件後の李氏の動きが思わぬミソをつけ、疑念や波紋を広げてしまうことになった。

 暴漢に襲われた李氏は、刃物による傷を負っているとはいえ、傷も浅く、出血量も少ない、意識もあり、命に別条なしという発表があった。

 李氏が最初に搬送された病院は、釜山市内の釜山大学病院だった。釜山と言えば韓国第2の都市であり、「日本の都市で言えば東京はソウル、釜山は大阪」などと例えられることも多い。当然、釜山大学病院は充実した施設・設備を持っており、緊急手術にも十分対応できる医療機関である。

 釜山大学病院側は傷口の消毒や応急処置を施したあと、手術を勧めた。ところが、李氏(と共に民主党)は、わざわざヘリコプターをチャーターし、ソウルで手術を受けたいと望んだというのだ。

 これには、戸惑いや、批判の声が飛び出した。Naverでニュースに付いたコメントを見ると、病院搬送の件について「釜山もずいぶんバカにされたものだ」「命に別条なく、意識もあるのに、ソウルにヘリで搬送とはいいご身分だな」と揶揄(やゆ)する声や「ハンストの時の労組系の病院にまたお世話になるのか?」と言った調子である。

 野党代表が刺されるという事態が起きたのだから、本来であれば警備上の問題点や実行犯に対する憤りの声がもっと上がってもおかしくないはずだ。それなのに、今回の事件について憤るのではなく疑念を抱いたり、2006年に 朴槿恵(パク・クネ)氏がやはり暴漢に刃物で襲われ、顔を負傷した事件を引き合いに出して考察するブログ記事が目についたり、という状況になっている。

 李氏が最初に搬送された釜山大学病院からは、「李氏のソウルへの移送は状況的に疑問だ」という指摘や抗議が出たという報道に加え、ソウルでの搬送先であるソウル大学病院は当初予定していた会見を突如として中止し、代わりに「共に民主党」の担当者が李氏の状態について発表を行うという不自然な動きを見せた。さらに、李氏の傷の状態についても、当初「1cmの裂傷」と発表していたのが、「2cmの刺し傷だった」などと二転三転している。

 こうした事態を受け、あらぬ臆測が広がっており、襲撃事件そのものよりも、事件発生後の李氏の動向や「共に民主党」の対応に注目が集まっている状況である。