美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。
「昼」なのに「夜警」!? 紛れ込んだ「女性」は誰なの?
では、アムステルダムの国立美術館より、レンブラントの「夜警」です。早速ですがクイズです! この絵の時間帯はいつでしょ~うか?
──え!? 夜警ってタイトルだし画面も何か暗いし、どう考えても夜だと思うけど…。それだとクイズにする意味がないので、昼!!
ピンポーン、大人の知恵で解かれてしまいました(笑)。
──いや、これはどう考えても夜でしょ!(笑)
それが違うんです。この作品はニスが何層にも塗り重ねられていることによって画面が黒ずんで、いつの間にか「夜警」と呼ばれてきたんですが、実はニスの洗浄作業を経て絵が明るさを取り戻すことで昼の光景だということが明らかになったんです!
でも、いまさら名前を変えるのもアレなので、ずっと「夜警」と呼ばれ続けている珍しい作品なんです。
──(え、全然これでも夜に見えるけど…まぁいいや)なんだかずいぶん壮大な絵のようですが、これは何かの物語の一場面なんですか?
いえ、これも当時バカ流行りした集合写真(集団肖像画)です!
──え! これもですか!? レンブラントってほんとに素晴らしい集合写真を描きますね~。きっとこの依頼主は大喜びだったんでしょうね♪
それが、そうでもないんですよ…。実は評価は最悪。レンブラントの落ち目のきっかけになった絵とも言われているんです。
そもそも、この絵は町の火縄銃組合のメンバーを描いたものなんですが…。
──確かに銃を持った人が結構いますね。真ん中の二人がお偉いさんでしょうか?
はい。この二人が隊長、副隊長なんで目立つのは当然なんですが、この二人の次に目立つのって誰だと思いますか?
──う~ん、この次だと…隊長の左の奥にいる女性でしょうか…。ん、女性?
そうですね! この女性がずいぶん目立っていると思うんですが、この組合は当時の火縄銃組合ですから、女性のメンバーがいるはずがありません。そして、全体を眺めてみてください。何人が描かれていますか?
──ちょっと数えますね…。いちに、さん、し…。え~っと…、微妙なのもありますが、少なくとも23人くらいはいそうですね…。
ですよね? でもこの絵を依頼したメンバーは18人だったんですよ?
──え!? じゃあ後の人は…。
知らない人が入っているんです。
──ええぇーっ!?
これはクラスの集合写真に見たことのない子が写っているのと同じような衝撃だと思います。
さらに、彼らは割り勘でお金を払っているのに(金額の差はあるにせよ)、まるでエキストラのように扱われている人もいるんです。
その一方では「存在しない女性」がとても目立っていたり、もうめちゃくちゃ!
──確かに、そりゃ怒るわな…。でもレンブラントはどうしてそんなことをしたんでしょう?
多分、この集団肖像画をドラマチックに見せるための演出だったと思います。
ただ、依頼主たちからすると、お金を払っているんだから、しっかりと描いてほしいと思うのは当然のことですよね…。
──なんと…。よかれと思ってやったことだと思うと残念ですね…。
そうですね…才能に溺れてしまったということでしょうか。残念…。
──南無~。
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)