農業というより土木工事

 これでフラットな土地は畑になったのですが、問題は斜面です。私はブラジルにいた時に、斜面でサトウキビが栽培されていたことを思い出します。ブラジルの農家は等高線上に1センチ単位で畝を作る技術を持っていました。それをこちらでもまねてみたのです。ところが雨が降るたびに畝が崩れ、畑が水没してしまったのです。思えばブラジルは雨が少なく、さらにサトウキビ自身が土地を固定することに役立っていたようです。しかし日本は雨が多い。

 そこで雨水を逃がすことができないかと考えていると、農場メンバーから有益な情報が入ります。高速道路に使用されている暗渠です。追加費用はかかりますが放り出すわけにはいきませんので早速導入してみました。すると効果は抜群で、見事に水たまりができなくなりました。このとき、暗渠に集められた水が清流の小川を生み出し、そこにどこから来たのか小さなサンショウウオがたくさん住むようになったのを見て、生き物って不思議だなと感動したことを覚えています。

 結局、私たちがやっていたことは、もはや農業というよりは土木工事でした。農耕機具よりもブルドーザーやバックホーといった土木建設用の重機をいじっている時間の方が長い。土地作りと水源の確保への取り組みが中心の日々でした。それにしても開墾には一息つく暇がありません。山の畑は雨が降ると地盤が緩くなるため、農耕機械を入れることができなかったのです。そのため、雨の日は農作業を中止せざるを得ませんでした。雨が続くと購入した苗の活力が低下していきます。

 そこで今度は苗を仕入れるのではなく自分たちで種から育てることにしました。そのための大規模な苗場を作りました。これにより苗の仕入れコストよりも格段に苗を用意できるようになりました。サイゼリヤが育てた苗は、契約農家にも配りました。これでさらなるコストダウンを実現できています。この後、サイゼリヤ専用の苗の品種改良にも着手し、種業者からもサイゼリヤ用に開発された種を仕入れています。