当然、その言葉を出て行く私への恨み言ではなく励ましの言葉と受け取り、サイゼリヤでも頑張ろうと心に誓います。どちらにでも解釈できる言葉は、いつでもポジティブに受け取ることにしています。
このようにして、味の素での19年のキャリアが終了しました。19年。なんとも微妙な数字です。実はあと1年働いて勤続20年であれば退職金の桁が変わっていたのでした。さすが大手です。しかし当時はそのことはあまり考えていませんでした。今が転機だと思っていました。
サイゼリヤに入社すると、生鮮担当マーチャンダイザーという役職に就きました。レストランで出す料理の素材となる野菜などの生鮮関係の購買の担当です。また、福島県白河市に新たな農業を始める役目もありました。購買だけでなく、農業そのものを変えていこうというもくろみがあったのです。
とはいえ、農業のことは分かりませんでしたので、前任者から引き継ぎをしてもらいながら、誰に教えてもらえばいいのかを探りました。しかも事業が成長期に入っておりレストランの店舗も300店に拡大していたため、規模が小さかった頃の従来の購入先ではキャパ不足になることは見えていました。そこで購入先をより規模の大きな業者に切り替えなければならない時期に入っていました。
自分が仕掛けられたら嫌なことを、相手に仕掛ければよい
規模の大きな業者に切り替えるに当たっては戦術を練りました。相手の規模が大きいだけに、こちらが不利になるような条件を突きつけられる可能性があったためです。まず、取引の交渉をするに当たっては、同じ原料の供給者をまとめて訪問しました。卵なら卵を扱っている業者、米なら米を扱っている業者などです。このとき、本命の業者は最後に訪問します。逆に最初に訪問するのは、情報を多く持ってはいるが、実はそこからは買う気持ちがない業者です。多くの場合は大型商社ですね。
このような相手は、最初は私のことを警戒しますが、私があまり語らないでいるとマウントを取り始めてきます。すると、私が知らないことを勝手にたくさん話し始めます。「俺の方がたくさん知っているんだからな、どうだ」という姿勢になってくれるのです。これが私の狙いです。ここで得た情報を、早速次の訪問先で披露するのです。すると、相手は「そこまで知っているのなら」とさらに裏の情報を提供してくれます。