サイゼリヤ元社長“図々しさ”のすすめ、マウントを取る商談相手に「しめしめ」と思ったワケPhoto:PIXTA

大手食品会社・味の素では勤続19年。大手でのキャリアに執着することなく、生産技術者としての能力を買われてサイゼリヤに転職した堀埜一成氏は、のちに同社の社長まで上り詰めました。その飛躍の背景にあったのは「図々しさ」でした。
※本稿は、堀埜一成氏『サイゼリヤ元社長がおすすめする図々しさ リミティングビリーフ 自分の限界を破壊する』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。

「何やってもいいんだ」と、楽しくなる

 まだ味の素の社員だった時に、サイゼリヤから突然に呼び出されます。電話をかけてきたのは私をサイゼリヤに誘ってくれた元上司でした。指定の場所に行くとベンツが待機していました。そのままベンツに乗せられて、まるで拉致されるように東京から連れ出されてしまいます。

 長いこと走り、到着したのは福島県の山の上にあるホテルでした。促されるままに会議室に入ると、たくさんの人が待っていました。どうやら山を購入するための調印式が行われていたようです。そのような会話が交わされていました。「もう少し○億円乗せられないか」などと驚くような金額の交渉が行われていました。そしてどうやら交渉が成立すると、その場で銀行に電話をかけて支払いの手続きが行われました。

 事情をのみ込めずにいると、その場に居る人たちに私が紹介されます。「彼は農業の専門家ですのでよろしくお願いします」と紹介されました。確かに私は農学部卒業ですが、農業のことは全く知りません。田畑を耕したこともなければ作物の名前も知りませんので、「農業の専門家」と紹介されて「そんな話は聞いていない」と内心ひどく驚いていました。

 会議室にはサイゼリヤ側として当時の社長と私の元上司、そして運転手がおり、相手側には村長さんや役場の人たちがいました。つまり、売買されていたのは村が所有する山だったのです。困感している私は窓辺に連れて行かれます。「あの山です」と窓越しに見える山が、たった今サイゼリヤによって購入された山だと言われましたが、一面の雪で、はっきりと見えません。「堀埜君、あの山を自由に使ってくれ」と言われました。

 ただ、「はい」とだけ答えたように記憶しています。そして、自分が何をすればよいのか全くイメージが湧きませんでしたが、「何やってもいいんだ」と、なんだか楽しくなり、到着直後の不安は消えていました。

今が転機だ

 味の素では残りの有給休暇も消化せずに4月の退社日まできっちり働きました。後任者たちへ引き継ぎを進めている間も私の転職について非難する人はいませんでしたが、ブラジルで共に働いた仲間の一人は、「堀埜さんが、ここでどこまで偉くなるか見たかったですね」と言ってくれました。