するとその日、鹿児島から真之(横田選手の父)が突然やってきました。慎太郎とベッドサイドでファンレターの整理をしていた時です。真之はいきなり病室に入ってくると「よう」と言いました。

「え!」

 慎太郎は父の頭を見て絶句しました。

「どうしたの、その頭!」

 真之は坊主頭になっていました。

「うん、これな。久しぶりに俺も剃ってみた」

「見れば分かるけど、なんで」

「お前と一緒に闘うつもりでな」

 真之は照れたのか、最後は小さな声になりました。慎太郎は何か言おうとして黙り、ふたたび口を開くと「ありがとう」と呟きました。目に涙が溜まっていました。それを見て真之も泣きそうになりました。ただ、私はどうしても真之の坊主頭が似合わなすぎることが許せず、

書影『栄光のバックホーム』(幻冬舎)『栄光のバックホーム』(幻冬舎)
中井由梨子 著

「慎太郎は若いからなんでも似合うのでいいですけど、あなた、これじゃお坊様ですよ」

「似合わなくったっていいんだ、これで」

「どうして早まっちゃったかしらね……いい歳して中学生みたいに剃らなくても……せめてスポーツ刈りにすれば」

「それじゃ意味ないだろう」

 というやり取りを繰り返し、ついに慎太郎から「いい加減にして、うるさいから」と一蹴されてしまいました。しかしその日、丸坊主頭の二人が庭に出てキャッチボールを楽しんでいるのを見ると、やはりおかしくて涙が出るのでした。