「すべての科学研究は真実である」と考えるのは、あまりに無邪気だ――。
科学の「再現性の危機」をご存じだろうか。心理学、医学、経済学など幅広いジャンルで、過去の研究の再現に失敗する事例が多数報告されているのだ。
鉄壁の事実を報告したはずの「科学」が、一体なぜミスを犯すのか? 
そんな科学の不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみを多数の実例とともに解説しているのが、話題の新刊『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』だ。
単なる科学批判ではなく、「科学の原則に沿って軌道修正する」ことを提唱する本書。
その中から今回は、かつて科学界を騒然とさせた「予知能力の発見に関する内容の一部を抜粋・編集して紹介する。

「“予知能力”を科学的に証明した」と主張した科学者…そのお粗末な研究ぶりとは? ――あなたが知らない科学の真実Photo: Adobe Stock

2011年1月:予知能力の「科学的証拠」が見つかった?

2011年1月31日、大学生に超能力があることが世界に知れ渡った。

その日、新しい科学論文が話題を集めた。1000人以上を対象にした実験で、超感覚的知覚で未来が見える「予知能力」の証拠が見つかったのだ。

どこかの酔狂な変人の論文ではない。執筆者は、アイビーリーグのコーネル大学のダリル・ベムという一流の心理学教授だった。

しかも無名な科学雑誌ではなく、心理学の世界でも権威ある主流の学術誌に、査読を経て掲載されたのだ。

それまで完全に不可能と考えられていた現象を、科学が公式に承認したかのようだった。

「これから見ることになる画像」を、覚えている?

ある実験の概要は以下の通りだ。

まず、関連性のない40個の単語が1個ずつ画面に表示される。

その後、抜き打ちで記憶力テストをおこない、学生はできるだけ多くの単語を思い出してキーボードで入力する。

続いてコンピュータが無作為に20個の単語を選び、もう一度学生に見せる(実験は終了)。

その結果、記憶力テストでは「これから見ることになる」20個の単語について、より覚えている傾向が見られた。

「テストの後に自分がどの単語を見ることになるかは、超能力的な直感が働かないかぎり、知りようがなかった」。

ベムはそう述べている。

つまり、「試験前に勉強して、試験を受けて、試験後にあらためて勉強すると、時間をさかのぼって試験の成績が良くなる」、ということらしい。