「物理の法則に逆らう予知能力」が科学文献の一部に
物理の法則が破棄されないかぎり、時間は一方向にしか流れず、原因は結果の前に起きると考えられている。
しかし、ベムの論文が発表されたことによって、これらの奇妙な結果が科学文献の一部となった。
もしベムが正しければ、研究者は誰でも、彼の指示どおりに実験をおこなえば超常現象の証拠を得られるはずだ。私のようにリソースがほとんどない博士課程の学生でもできるはずである。
だから私は実験することにした。そして、やはり結果に懐疑的だった2人の心理学者、ハートフォードシャー大学のリチャード・ワイズマンとロンドン大学ゴールドスミス・カレッジのクリス・フレンチに連絡を取った。
私たちはそれぞれの大学で、単語の記憶力テストの実験を3回ずつ再現することにした。数週間をかけて参加者を募り、記憶力テストを終えてから、実験の目的を説明した。
彼らの困惑した表情はさておき、実験の結果は……超常現象は起きなかった。私たちの実験に参加した大学生は超能力者ではなかったのだ。
記憶力テストの後に見ることになる単語かどうかで、記憶力に違いはなかったのだ。物理の法則は安泰のようだ。
再現実験に失敗したが、「予知能力」はメディアで話題に
私たちは実験結果を正式な論文にまとめ、ベムの論文が掲載された『ジャーナル・オブ・パーソナリティ・アンド・ソーシャル・サイコロジー』に提出した。
しかし、ほぼ瞬時に扉は閉ざされた。
編集長は2、3日で私たちの論文を却下し、過去の実験を繰り返した研究は、元の実験と同じ結果であってもなくても、一切掲載しない方針だと説明した。
不当な扱いではないか。この学術誌は、きわめて大胆な主張を展開する論文を掲載したのだ。それが事実であれば、心理学者にとって興味深いだけでなく、科学に大革命をもたらすような主張だ。
論文はサイトで公開され、一般のメディアでも大いに話題になった。