花粉症の救世主?薬剤散布でスギ花粉を激減!「9割の雄花を枯らす」画期的な技術とはPhoto:PIXTA

「国民病」ともいえる花粉症に抜本的な対策はあるのだろうか。実は今、スギ花粉の飛散量を大幅に減らす画期的な手法が有力視されている。私たちが花粉におびえずに済む日も近い!? 研究の第一人者である小塩海平・東京農業大学教授に話を聞いた。(ライター 正木伸城)

スギの雄花を枯らすことで
花粉の飛散量を抑える研究とは

 2024年も憎き花粉症のシーズンがやってきた。鼻水や目のかゆみ、頭痛などに悩まされ「個人での対応はもう限界」と嘆いている人も多いだろう。

「花粉症は多くの国民を悩ませ続けている社会問題。国民の安心安全の確保に向け、花粉症対策を強力に進める」

 岸田首相は23年10月、花粉症に関する関係閣僚会議でこう発言した。政府は昨年、花粉症対策を本格化。スギの人工林を10年後に2割減、30年後には花粉の発生量を半減させるなどの目標を掲げる。

「林野庁はスギを『伐って利用』『植え替え』『花粉を出させない』という三つの対策を掲げています。が、伐採や植え替えは現実的ではありません。全国にスギ林は450万ヘクタール、ほぼ九州の面積ほど存在します。一方で林業従事者は減り続け、今は4万5000人ほどしかいない。つまり、1人当たり1年に1ヘクタールを伐採しても100年かかります」

花粉症の救世主?薬剤散布でスギ花粉を激減!「9割の雄花を枯らす」画期的な技術とは小塩海平(こしお・かいへい)/東京農業大学国際農業開発学科教授。1966年静岡県生まれ。著書に『農学と戦争 知られざる満州報国農場』『国際農業開発入門』など

 こう話すのは、東京農業大学の小塩海平教授だ。長年、花粉に関する研究を続け、21年には『花粉症と人類』(岩波新書)を出版した。

 近年は豪雨により山で地滑りが発生することも増えている。花粉症対策としてスギ林を伐採・更新することによる災害対策上の不利益も無視できない。そこで有力視されているのが、小塩教授が研究するスギ花粉の飛散量を大幅に減らす方法だ。

「花粉は雄花から飛びます。花粉を出させないために、スギの雄花だけを枯らすのです。試行錯誤をする中で、植物油を5%の乳化液にして夏から秋に散布すると、ほぼ全ての雄花を選択的に枯死させられることが分かりました。その後、民間企業と共同で改良を加え、天然油脂由来の界面活性剤をスクリーニングすることに成功しました」

「選び出した界面活性剤は食品添加物なので、人体はもちろん動植物にほとんど影響を与えません。土壌分解性も高いため、地下水汚染の懸念もない。16年には『パルカット』という名で農薬登録しました。パルカットを何度か重ねて散布すれば、9割以上の雄花を枯らすことができます」