社会実装への挑戦
いかにコスパ・タイパよく散布するか

 こうして研究は次のステージに移る。林野庁の事業として23年9月、栃木県のスギ林に有人ヘリコプターで空中散布する試験にこぎ着けた。

「パルカットの希釈度(3~22倍希釈)や量、ノズルのタイプ(スプレー、ストレート、フォームジェット)をさまざまなパターンで組み試験しました。最も効果が高く、8割の雄花が枯れたのが、22倍希釈のパルカットを1ヘクタール当たり1350リットル、フォームジェットノズルを用いて散布したパターンです」

「総じて、高濃度少量散布では雄花の褐変は2割程度だった一方、低濃度多量散布ではおよそ7割の花粉飛散を抑制できるとの結論に至りました」

「残された課題はいかに低コストで効率よく散布するか。有人ヘリコプターの費用が1日300万~500万円ほどかかりますし、そもそもヘリコプターの数が限られています」

 昭和の水田に農薬をまいていた時代にはノズル付きヘリコプターが全国にあったが、令和の現在では10台程度しか残っていないという。増やすとなると、海外から輸入する関係で時間がかかったり、円安の影響もあってノズルだけでも2000万円以上もかかったりするそうだ。

 ブレイクスルーで期待されているのが、ノズルではなくバケット(バケツ)を用いる散布パターン。バケットならどんなヘリコプターでも装着して散布できるという。栃木県での試験に続いて10月と11月、このバケットによる試験(ただし散布したのは水)を静岡県と北海道で行った。その他、ドローンを用いた試験も継続して行っている。

花粉症の救世主?薬剤散布でスギ花粉を激減!「9割の雄花を枯らす」画期的な技術とは23年9月栃木県での散布時の様子(小塩教授提供)
花粉症の救世主?薬剤散布でスギ花粉を激減!「9割の雄花を枯らす」画期的な技術とは高濃度少量散布では総じて雄花の褐変は2割程度だった(同上)
花粉症の救世主?薬剤散布でスギ花粉を激減!「9割の雄花を枯らす」画期的な技術とは低濃度多量散布ではフォームジェットノズルの効果が高いことが分かった(同上)
花粉症の救世主?薬剤散布でスギ花粉を激減!「9割の雄花を枯らす」画期的な技術とは23年11月に北海道で有人ヘリを利用して500リットルのバケットに水を入れ、飛行速度、飛行高度、吐出量などを組み合わせて散布量の検討を行った(同上)