バランス釜強要、リフォーム禁止、住民を監視――。東京都渋谷区の超好立地にもかかわらず、独裁的な管理組合が課する独自ルールがもとで価格が低迷していたマンション、秀和幡ヶ谷レジデンス。特集『2023年決定版 インフレ時代の「負けない」マンション売買・管理』(全24回)の#1では、2021年に政権交代を成し遂げ、管理を正常化させた住民有志が、メディアで初めてその息詰まるレジスタンス戦の内幕を詳細に語ってくれた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
リフォーム禁止、バランス釜強要、住民どう喝・監視…
長期独裁管理組合理事会をレジスタンスが打倒
東京都渋谷区の幡ヶ谷駅。新宿から2駅目のこの駅から商店街を抜けて4分ほど歩くと、公園の脇に青い屋根が特徴的な白壁のマンションが見えてくる。
秀和幡ヶ谷レジデンス。総戸数298戸。凹凸のある白壁や複雑な曲線デザインのフェンスにも汚れや破損がなく、もうすぐ築50年を迎えるとは思えないほど美しいマンションだ。
だがこのマンションは、数年前からSNS上で不名誉な俗称で呼ばれてきた。「買える渋谷の北朝鮮」だ。約30年もの間、固定されたメンバーで管理組合を運営する理事会が、さまざまな独特の管理ルールを住民に強いる独裁政権を続けてきたからだ。そのせいもあってか、超好立地にもかかわらず、相場を大きく下回る価格で取引がされてきた。
まず、自分が所有権を持つはずの専有部分のリフォームが自由にできない。工期が1カ月以上かかるリフォームは全て禁止。特に浴室リフォームは全面禁止のため、給湯器はバランス型風呂釜を使わざるを得ない。大きな家具の運び込みも禁止されたため、引っ越し時に廃棄せざるを得ない住民もいたという。
さらに訪問看護などの医療関係者や介護ヘルパーなども含み、外部業者は平日午後5時以降、日曜祝日は終日マンション内に入れない。住民が屋内で倒れたときなど、救急隊員が入れずあわや深刻な事態になることもあった。非常口から外に避難する出口の門は厳重に施錠され、災害時に逃げ遅れるリスクさえあった。
廊下で立ち話や携帯電話も禁止。マンション内でのキャリーケースやベビーカーの使用も禁止。住民の様子はマンション内にくまなく設置された監視カメラで逐一チェックされていたという。友人を自宅に泊めた住民は、「8泊以上泊めたので民泊に当たる。管理組合に宿泊費を払え」と要求された。つまり、個人の部屋に誰がいつ出入りしたかのレベルまで理事会やその指示を受けた管理会社・管理員が事細かに把握していたのだ。後から証拠も発見されたが、投函されたチラシを処分する、という理由で集合ポストの中ものぞかれていた。
これらの謎ルールは一切管理規約には書かれていない。ただ各所に「書面による理事会の同意を得ること」との一文が組み込まれており、これを根拠に規約や総会決議にないさまざまなルールが追加されていったのだという。
「理事会はこういう方針説明をしたから、組合員の承認を得たものと見なす。不満があるなら法廷で会いましょう」というのが理事長の口癖だったという。
部屋を賃貸に回しているオーナーも多く、かつ住民には高齢者が多い。管理に対する不満や疑問をぶつけても強権的につぶされてしまうことが長年続いていた。だが、ついに2021年11月に「政権交代」が起きたのだ。その裏には、足かけ4年に及ぶ有志の活動があった。いかにして「渋谷の北朝鮮」は民主化されたのか。その立役者たちが、今回メディアで初めてその驚きの内幕を詳細に語ってくれた。そこには、監視の目をかいくぐり、知恵と連携を駆使して行われたレジスタンス的な攻防戦や、旧理事会側の信じられない主張や激しい抵抗があった。次ページからその全貌を見ていこう。