このように複雑な感情が根底にあるため、先進国の住民も移民の受け入れには困惑気味でした。移民する側もそうした意識から発生する地元住民の差別的な言動に困惑することになります。ヨーロッパでは特に移民側にイスラム教徒が多いため、地元のキリスト教住民たちとの文化のギャップを感じることも多いようです。移民側と地元住民側の双方がそうした状態に不満をもってしまうため、様々な摩擦が起きてしまい、究極的にはテロ事件のようなことにまでなってしまうのです。

 こうした問題を解決するための方策として、移民が「エスニック・コミュニティ」を作り、一定の秩序を形成することで、地域との共生をはかれるようにしてきました。例えばアメリカでは古くから「チャイナタウン」「コリアンタウン」などが形成されてきました。これには、移民同士が助け合い、移民の「世話役」を通じて地元自治体などとの接点を作ることで、移民が生活しやすい環境を作れるようになるという効果があります。また、コミュニティ内での生活サービス(母国料理のレストランや、食料品店、理美容店など)で雇用を生み出せる可能性も高まります。

人手不足解消の切り札
日本を支える「技能実習」

 日本は人口減少社会です。低賃金の職業に就こうとする若者が少ないなか、東南アジアなどの外国人労働者に依存する傾向が強まっています。移民によって経済の活力を維持し、人口減少に歯止めをかけるべきなのでしょうか。

 しかし、日本では、移民に関する議論はほとんどされてこなかったというのが実情です。日本の「旧来からの移民制度」は比較的厳しい方で、この条件をクリアして日本に移住できる人の数はそれほど多くありませんでした。日本でも人手不足が深刻になってきた時期に移民受け入れの議論をすべきだったのですが、そういうこともなく、「移民ではない制度」が作られてきました。