一つ目はカスケードダウンが「経営戦略をストーリーでつなぐ」ことです。

 通常、企業の経営戦略は、経営層や経営企画担当がさまざまなデータや情報をもとに何時間にも及ぶ議論をしながら決定していきます。

 議論する中で、バラバラだった「点」の情報は、「原因と結果」「目的と手段」といった「線」でつながったストーリーとして積み上げられていきます。ストーリーを共有しているメンバーは経営戦略を他人事にはしません。

 ところが、多くの目標管理制度を見ると、ミドルマネジメント層以下の目標設定の際に、経営層が交わした議論や背景にある情報が共有されることはありません。

 経営戦略・課題・定量目標などの断片的な情報だけが現場に発信されるだけになってしまうのです。

 人は断片的な情報よりもストーリーを共有する方が、物事を理解しやすいもの。腹落ち感も高まります。自分自身が経営戦略の当事者であることを認識し、経営戦略を自分ごと化します。

 カスケードダウンでは、社員の誰もが同じ目線に立ち、同じストーリーを共有し語れるようになることで、経営と現場、部門と部門、上司と部下など、組織を分断する壁や溝が埋まります。

 二つ目は、カスケードダウンが「抽象度の高い経営戦略を具体化していく仕組み」であるということ。

 事業が広範囲にわたる企業の場合、経営戦略は抽象的かつ漠然としたものになりがちです。一方で、多くの目標管理はそれを具体化していく仕組みになっていません。その結果、「経営戦略はあるが具体性がない」と社員に浸透していかないのです。

 カスケードダウンは抽象的かつ漠然とした経営戦略を「細分化」というプロセスを通して、現実感のある具体的な取り組みにつなげていきます。

管理強化は逆効果でしかない
まずは「社員を信頼する」

「経営戦略を腹落ちさせることの重要性は理解できるが、それで本当に社員が動くのか?」と疑問に思う経営者も多いのではないでしょうか。

 こうした経営者の話を聞くと、たいてい「うちの社員は危機感がなく、意識も低く、主体性もない」という結論に達しています。基本的に社員のことを信用していないのでしょう。

 社員が自ら動かない大きな要因の一つは、経営者の社員に対する不信感です。経営者の不信感はマネジメントスタイルに表れます。

 例えば「現場の権限を奪う」「意思決定を経営に集中させる」「しつように報告や説明を求める」「徹底的に行動を管理する」など、社員を縛り付ける管理強化が行われるのです。 

 がんじがらめのマネジメントの下で社員は殻に閉じこもってしまいます。主体的に行動してもらいたいなら、まずは「社員を信頼する」が基本です。