企業が真に価値を創造・継続・発展させていくためには、時間軸や価値構造を拡張し、将来を見据えた「統合思考」で経営を実践していくことが重要となる。書籍『【実践】価値創造経営』では、これからの時代に対応する企業価値創造のための経営管理の考え方、フレームワーク、実践手法、そのツールとなるテクノロジー、価値創造経営への変革マネジメントについて解説している。
「失われた30年」で失ったものとは
日本経済はバブル崩壊の1990年代以降「失われた20年」と呼ばれる低迷期に入って久しく、今や「失われた30年」と言われるようになりました。この間、世界経済における日本企業の存在感は希薄化していると言わざるを得ない状況になっています。
例えば、企業価値の代表的測定尺度である株式時価総額を見ても、1989年(平成元年)12月末時点では世界の時価総額ランキング上位50社に日本企業が32社ランクインしていたのに対し、30年後の2019年(平成31年)4月末ではわずか1社という状態です。
日本企業の企業価値が低迷ないし毀損してしまっている理由はいくつも挙げられますが、その1つとして「経営管理の対象範囲の狭さ」にあると筆者は考えています。
価値を創造するためには、さまざまな経営資源を投入して企業の足腰を鍛えたうえで、顧客や社会に価値を提供し続けることが求められます。収益や企業価値の向上は、あくまでその結果に過ぎないのです。
ところが、結果(または結果の見通し)の財務数値、しかも今期または来期という短期の業績管理に多くの時間を費やし、価値創造のための長期的なシナリオや、そのための「足腰」に相当する無形資産に十分な関心が払われず、経営管理の対象にもなっていないという企業は珍しくありません。
筆者は、企業が真に価値を創造・継続・発展させていくためには、こうした財務的・短期的業績管理から、次のように将来を見据えた「統合思考」で経営を実践していくことが重要だと考えています。
1.「時間軸」の拡張
中長期的な将来に照準を定め、そこからのバックキャストで今を考える。
2.「価値構造」の拡張
財務だけではなく人的資本、知的資本などの無形資産、さらには社内だけでなく価値提供先である顧客、社会、環境などに価値構造を捉える範囲を拡げ、マネジメントの範囲を拡張する。