創業者の父が勝手に廃業した鍛造会社を、取引先ゼロ+キャッシュフローほぼゼロ+金融機関からの融資拒否という状態で引き継いだものの、類まれな経営手腕によって、わずか数年で業績を回復、その後100億円で会社を売却した平美都江社長こと“なぜおば社長”。
その壮絶な経営体験を、昨今のスタートアップ・ブームで、大きな夢を叶えるべく日々奮闘する若き起業家のために役立ててほしいとの思いから、『なぜおば社長の100億円ノウハウ スタートアップ 倒産させない絶対経営10の原則』を上梓。
著者の父親が廃業してお客も、従業員もいなくなって、お金もない状態は、まさにスタートアップそのもの。
著者自身、父親から解雇されていた時期に、自ら鉄鋼商社を立ち上げたこともあります。
さまざまな艱難辛苦を経験したことで培われた、いかなる状況においても会社を潰さず、さらに利益爆発をもたらすノウハウを、「10の原則」にまとめた1冊。(10の原則:ライバル分析の原則、3分割の原則、現金最優先の原則、アップデートの原則、スピードの原則、設備投資の原則、報酬の原則、自己責任の原則、トップ営業の原則、コンプライアンスの原則)
本連載では、なぜおば社長が実際に出会った、経営に悩む経営者のエピソードとその対策をその10の原則から抜粋・再構成のうえ3回に分けて紹介します。
第1回は、10の原則のうち「現金優先の原則」のエピソードをお伝えします。
受注した仕事が終わらないかぎり現金は1円たりとも入ってこず
あるプログラミングソフトを制作するソフトウエア会社の社長は、いつも現金がなくて苦労していました。
彼の会社のお金と家族が持つお金を合わせて、わずか6000円しかないときもあったとのことで、どうすればいいかと相談されました。
私は驚きましたが、本人曰く、仕事はこなしきれないほどたくさんあるとのことで、それほど危機感を持っているようには見えませんでした。また、営業にはしっかり行っているようで、そのかいもあって、依頼は十分にあるとのことでした。
「それらをこなしていけばよいだけ」と言い切る社長に、私は懐疑的でした。
なぜ彼の会社には、仕事がたくさん入ってくるのに現金がないのでしょうか。さらに話を聞いていくと、私は啞然とするしかありませんでした。
「注文を出す」と、あちこちの企業から言われているにもかかわらず、彼は注文書をもらっていなかったのです。すべて“口約束”でした。
また、予約金を受け取るようなこともまったく念頭にはなかったようでした。それを彼に指摘しても、「予約金って?」と聞き返される有様でした。通常は、足の長い仕事を始める際、見積金額の一定の割合を事前に受け取っておくものです。
ソフトウエアは、彼一人で制作できるわけではありません。一部、または大部分を外注する場合があります。そのため、社内外の従業員に給与を支払う必要があります。
しかし、彼のやり方では、現金を手にできるのはすべてのソフトウエアが完成してからです。
また、彼は「仕事はたくさんある」と言っていましたが、すべて口頭でのやりとりで、そもそも、すべて本当に仕事になるのかどうか……。
お金は、仕事を完成させ、先方に納めて初めて受け取ることになっているため、時間と労力をかけたあとで、先方に「そんなことは知らない」「正式に注文したわけではない」「そんなソフトあればいいなと言っただけだ」などと言われる可能性もあるのです。