これは、うつの人だけでなく、誰に対しても同じです。話を聴くのは大事ですが、それ以前に“心に耳を傾ける”という姿勢が必要なのです。
耳を傾けても心を傾けていない。その悪い例として引き合いに出されるのが最近の外来診察室の医師です。
パソコンの画面を見ながら「どうしました?」と聞き、患者さんの話が終わると「ではお薬を出しましょう」と言う。患者さんの顔も見ず、体にも触れず、何がわかるのでしょう?
やはり、人付き合いの基本は、しっかりと相手と向き合うことです。私がよく後輩の看護師に言っていたのは「1分でいいから、患者さんの話に集中しなさい」ということ。
実は、ベテランの看護師ほど、これができていなかったりします。ベテランは1人の患者さんに対応しながら、他の患者にも気を配る技術をもっています。でも、その高い技術にこそ、失敗の原因が潜んでいたりします。
“見ているつもり”になって、大事なことを見逃していることがあるのです。
看護の現場だけでなく、普段の生活の中でも、これと同じことが言えます。
川嶋みどり 著
たとえば、忙しいときに子どもから「ママ見て。この花がきれいだよ」と言われたとします。こんなときに「あっ、そう。そこに置いておいて」とか「忙しいから後で見るわね」と言うだけでは感心できません。
さっとその花を見て「あら本当ね。とってもきれい」と、その場ですぐに共感することが大事なのです。
言葉数はほとんど変わりません。違うのは、心を向けているか、向けていないか。これによって、関係性は大きく変わってきます。
人間関係は、心と体を相手にしっかり向けることで成立します。
うわの空で聞いていたら、相手には気のないことがすぐに伝わってしまいます。夫婦や親子など、親しい間柄ほどやってしまいがちですが、案外、こんな小さなことから溝ができていくのかもしれません。