森元首相についての
もう一つの問題

 森元首相については、もうひとつ、頭の痛い問題が生じている。この裏金事件の前に、東京五輪・パラリンピック汚職事件でも、森元首相は黒幕と言われながらも乗り切った。しかし、受託収賄罪に問われ公判中の大会組織委員会元理事・高橋治之被告が、1月31日に東京地裁で行われた公判で「森元首相を証人として法廷に」と要求したのである。

 大会スポンサー企業などから約2億円の賄賂を受け取ったとされる高橋氏は、取り調べに対して口が堅く、それが政治家などを助けたといわれていた。だが、検察の事情聴取の際、自分だけに責任を押しつける証言をした森元首相らに我慢できなくなったのだろうか。

 初公判で検事側は、高橋被告は組織委会長だった森元首相からマーケティング担当理事としてスポンサー集めなどを任されており、組織委に公式スポンサーとするように働きかける権限があったと主張。

 これに対して弁護側は、高橋被告にはスポンサー企業を募るなどの具体的な職務権限はなく、提供された資金は民間同士の取引の対価だと主張した。

 高橋被告は「森さんからマーケティング担当理事と言われたことはない」「招致活動には、渡航費などの経費がかかるが、予算はないというので、1社2億1000万円の協賛金を集めるパッケージを作り、30%は僕の招致活動費に使うという契約を交わし、自分の会社に振り込んでもらった」などと反論している。

 高橋被告の言い分がどこまで本当かは分からないが、同被告には森元首相と直接対決することを望む理由があるようにも見受けられる。

 もし、検察と森元首相との間で非公式な司法取引があったとしたら、検察も責任を問われるべきだろう。