【童謡の謎】「さくらさくら」の歌詞が2番まであるのには深いワケがあった写真はイメージです Photo:PIXTA

童謡といえば、幼い頃に親が教えてくれたり、学校の授業で扱ったりと、とても身近な存在。それらのなかには、作者の想いが込められた作品も多く存在する。人気シリーズ『童謡の謎』の著者が、童謡「さくらさくら」に込められた“想い”や“意味”を解説する。※本稿は合田道人『歳時記を唄った童謡の謎』(笠間書院)を一部抜粋・編集したものです。

弥生に咲く桜を愛でる箏曲
「さくらさくら」は江戸時代に生まれた

「さくらさくら」(作詞・作曲不詳)

「さくら、さくら。野山も、里も、見わたすかぎり」。
「かすみか、雲か。朝日に、におう」。
「さくら、さくら。花ざかり。

「櫻、さくら。弥生の空は、見渡すかぎり」。
「霞か、雲か。においぞ、いづる」。
「いざや、いざや。見にゆかん」。

「桃の節句」のおこりがお花見につながってゆくが、やはりお花見といえば「さくら」。いや、実はお花見の始めは、さくらではなく中国から伝来した梅が主流だった。

 それが平安時代に入り、日本古来のさくらを春の花として愛でるようになった。菊とともに国花とされる「さくら」の『さ』は、田んぼの神、穀物の霊という意味があり、『くら』は神坐、つまり神様が宿る所という意味で厄を払う力もあるとされた。

 さくらの木の下で一年の健康を祈り、今年も豊年であるよう願う。これが花見本来の意味合いだった。

 一般的な開花時期は3月後半からで、学校の入学式が行われる4月が見頃ということになるが、「さくら」の歌詞には、「弥生の空は、見わたす限り」とあるから、さくらは弥生3月の花ということになる。

 この「さくら」の歌は江戸古謡と表記されているものが多いが実際は、幕末に江戸において作られた子ども用の箏の手ほどき曲だった。

「咲いた櫻」を題目に、「さいたさくら。花見てもどる。吉野はさくら。竜田はもみじ。唐崎の松。ときわときわ。深緑」と歌われていた。さくらのお花見だけではなく、もみじ狩りから松まで入っていた。