草木が芽吹き、花開く3月はさまざまな別れも訪れる季節。童謡にも“春の別れ”を歌った曲は数多く存在し、歌う者、聴く者の感情を揺さぶってきた。人気シリーズ『童謡の謎』の著者が、別れの歌に隠された意味や誕生秘話について紹介する。※本稿は合田道人『歳時記を唄った童謡の謎』(笠間書院)を一部抜粋・編集したものです。
わらべうた「はないちもんめ」に
込められた女性たちの悲哀
「ふるさともとめて、はないちもんめ」。
「あの子がほしい。あの子じゃわからん。この子がほしい。この子じゃわからん」。
「○○ちゃんがほしい。じゃんけんぽん」。
「かってうれしい、はないちもんめ。まけてくやしい、はないちもんめ」。
この歌の発祥地は、関東は北総、佐倉から印旛沼、手賀沼あたりという説がある。特産の花は春になると一勢に東京の市場まで運ばれる。そこから花とともに歌もまた全国に広まったという。
「ふるさともとめて、はないちもんめ」。花の出荷先、つまり新しいふるさとを求める花の旅を歌ったというのだ。しかし「花」にはいろんな意味がある。
いわゆる一般的な花のことはもちろんだが、やはり花の代表ということから桜のことを「花」と使うことが多い。確かに「お花見」は桜の花を見ることだし、「花の便り」といえば桜が咲いたことをさす。桜の花が咲く時期の曇った天気のことを「花曇り」というではないか。となればやはり弥生3月の歌と言うことになるのか?
しかしながら「花が咲く」といったら、普通に花が咲くということだけではない。「あの時代が花だった」の「花」は、最も良い時節や事柄のことだし、心付けやご祝儀のこともそういう。「花代」のことである。『隠語辞典』をひくと芸者、娼婦に与える金銭という書き方になっている。
さて一体、このわらべ歌「はないちもんめ」の「花」はどの花なのだろうか?
わらべ歌には、おおっぴらに口に出せない庶民の鬱憤や願いが隠されているとされる。
「はないちもんめ」の遊び方は二つの組に分かれ、「あの子がほしい。あの子じゃわからん」と、相手の組の中からひとりずつ選んで、こちらの組に入れてゆく「子取り唄」と呼ばれる種類だ。「もんめ」とは匁、文目とも書くお金の単位。
そうである。この花とは花代の「花」だった。いちもんめとは、非常に安い値段をさす。つまり安く女を買う。遊郭などに売られてゆく女の子のことだったのだ。
「ふるさともとめて」の部分を、「ふるさとまとめて」と歌う地域も多い。
「まとめて」となれば、生まれ育ったふるさとを整理して出てゆくということになる。農村の飢饉によって、人身売買が横行した江戸時代、貧しさゆえ明日の食糧すら事欠き、仕方なく子どもを手放すしか方法がない人々が多かった。口減らしである。