四季がある日本には、春夏秋冬それぞれを歌った童謡が数多く存在する。小学校の教科書でも学ぶ「ちょうちょ」は、春の童謡として多くの人々に親しまれている。じつは、その歌詞には、さまざまな意味や想いが込められているという。人気シリーズ『童謡の謎』の作者が「ちょうちょ」の謎について解説する。※本稿は合田道人『歳時記を唄った童謡の謎』(笠間書院)を一部抜粋・編集したものです。
「ちょうちょ」の詩は愛知県に伝わる
わらべうた「胡蝶」を元に作られた
「ちょうちょちょうちょ。菜の葉にとまれ。菜の葉にあいたら桜にとまれ」。
「桜の花の、花から花へ。とまれよ遊べ、遊べよとまれ」。
春がやってきた。入学式や入社式、あたたかい風とともにちょうちょが飛んでくる。今でも子どもに歌われる、「ちょうちょちょうちょ。菜の葉にとまれ」は、小学生以上の国民なら全員が知っている歌ということになる。
なぜならこの歌は、明治14(1881)年、わが国最初の音楽、当時の唱歌の教科書だった『小学唱歌集初編』から掲載され、なんとそのとき以来現在までずっと学校で教わる歌になっているからだ。
「ちょうちょ」はスペイン民謡ともドイツ民謡ともされる。1977年公開、ジェームス・コバーン主演のドイツ映画「戦争のはらわた」の中では、子どもたちが歌う「小さなハンス」として流れ、アメリカでは「ボートの歌」、イギリスでは「笑う5月」という題名で歌われ続けている。
このメロディーに日本は「ちょうちょ」の詩を当てた。しかしこの詩は、現在の愛知県に伝わる「胡蝶」「蝶々ばっこ」の歌詞を元にしていた。
「胡蝶」は、「蝶々とまれ、菜の葉にとまれ。菜の葉にあいたら、この葉にとまれ」という具合だから、原型になったことは疑いない。これは「わらべうた」として歌われていたが、元をただせば花街や色街で芸者衆や娼婦たちが歌っていた歌だったとされる。
「菜の花」ではなく「菜の葉」にちょうちょがとまるときは、卵を産み付けるときのみだ。つまりここには、性交の意味が隠されていたという艶っぽい話も残る。
いずれにせよ、この「わらべうた」とされていた詩を元に、野村秋足が詩を書いて音楽の教科書に発表したのだ。
現在は、「桜の花の、花から花へ」と歌うが発表当時は、「桜の花の、さかゆる御代よに」となっていた。
「桜の花」とは日本の国花、象徴的な花。それはそのまま日本の象徴、天皇陛下に結びつく。御代とは、天皇の世を尊ぶことだから、つまり「天皇陛下が治めるこの世よ、どうぞ栄えあれ!日本の花、桜とともに」という思いが綴られていたのである。