実体経済の回復なき株価上昇、課題は?
株価が最高値を更新する一方、わが国では「景気回復を感じない」との声が多い。「実体経済の力強い回復なき株価上昇」の様相を呈していることは注目すべきだ。今後は、わが国が“失われた30年”から本当に抜け出せるかが重要なポイントとなる。少子高齢化、人口の減少、社会保障関係費の増大による財政悪化など、状況は厳しい。
ただ、希望はあるはずだ。企業で賃上げの重要性が高まっている。賃上げは、従業員の生活の安定のみならず、学び直しやリスキリングへの意欲も支える。これは、企業が成長性を高めることや、雇用の流動化、本来あるべき経済の循環の実現に必要だ。
政府や企業は、限りのある人材が実力を高め、さらに高い賃金を手にできる環境を整備することに注力すべきだ。それは、先端分野へ経営資源を再配分する促進となり、より高付加価値のモノやサービスの創出を支える。こうした変化が本格化すると、今のようなインフレではなく、安定的な物価上昇の可能性が高まり、真の意味でデフレマインドを根本から克服するチャンスとなる。
また、国を挙げて成長産業を育成することは欠かせない。米エヌビディアの好決算を見ても、世界中で生成AIの需要が急増していることは明らかだ。AIチップを製造するTSMCの熊本工場に続けと言わんばかりに、関連する精密機械、パワー半導体などの分野でも工場建設が相次ぐ。北海道ではラピダスが回路線幅1ナノ(ナノは10億分の1)メートルのチップ生産を計画する。わが国で半導体産業が復活を遂げる可能性に期待が高まっている。
23年7~9月期、10~12月期、国内のGDP成長率はマイナスだった。1~3月期もマイナス成長に陥る可能性は高い。中国経済が低迷する懸念が追加的に高まれば、設備投資の下ぶれリスクも上昇する。
今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである。
8段落目:日経平均株価は、1987年末に→日経平均株価は、1989年末に
(2024年3月5日13:21 ダイヤモンド編集部)