AI時代のリスキリング支援に政府が5年で1兆円規模の予算を投じるなど、「学び直し」の機運がかつてないほど高まっている。しかし、いざ独学を始めても「なかなか上達しない」と感じて挫折する人は少なくない。そんな壁を打ち破る具体的な方法論を提示してくれるのが、『ULTRA LEARNING 超・自習法』である。本連載では、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった本書から「基礎練習」というメソッドについて紹介する。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

勉強をする若い女性Photo: Adobe Stock

「全体練習」では伸びない理由

 新しいスキルを学ぶとき、多くの人は「とにかく全体を繰り返せばうまくなる」と考える。

 英語の勉強ならば教科書を通読、楽器ならば教本を最初から最後まで練習するといった具合だ。

 しかし著者は、こうした「丸ごと練習」がしばしば非効率であると述べる。

 なぜなら、複雑なスキルを練習するとき、人間の注意力や記憶力といった認知リソースは、タスクのさまざまな要素に分散されてしまうからである。

 文章を書くなら、リサーチ、構成、語彙、文法など多くの要素を同時に処理しなければならず、たった1つの要素すら上達させるのが難しい状況に陥るのだ。

基礎練習は、認知能力を1つの側面だけに集中できるようスキルを単純化することで、この問題を解決する。(『ULTRA LEARNING 超・自習法』より)

 つまり、スキルを構成するパーツをいったんバラバラにし、ボトルネックとなっている要素だけを集中的に鍛えるのが「基礎練習」の核心である。

 たとえるならば、料理が苦手な人がフルコースを毎日つくるのではなく、「包丁さばきだけ」「火加減だけ」と切り分けて練習するようなものだろう。

 本書には、この基礎練習を実践するための5つの具体的なワザが紹介されている。

スキルを「分解」する5つのワザ

 第1のワザは「時間分割」だ。

 長い一連のアクションを時間で区切り、最も難しい部分だけを集中して練習する。ミュージシャンが曲全体を弾くのではなく、難所だけを繰り返し弾くのは、まさにこの手法である。

 第2は「認知要素での分解」

 たとえば外国語学習ならば、文法・発音・語彙を同時にこなさなければならないが、あえて発音だけを切り出して練習する。著者は標準中国語を学んだ際、音程の異なる単語のペアを発音して録音するという基礎練習に取り組んだという。

 第3は「コピー」で、練習対象以外の要素を他人の作品や自分の過去作品から借用してしまう方法だ。

 似顔絵を練習するとき、構図や題材選びは他者の作品を真似し、「写真を正確に描写するスキル」だけに集中するわけである。

 第4の「虫メガネ法」は、スキルの一要素に通常の何倍もの時間を投入するやり方だ。

 著者は記事執筆のリサーチ力を高めるために、これまでの10倍の時間をリサーチに費やすようにしたそうだ。全体のバランスは一時的に崩れるが、弱点のサブスキルに膨大なリソースを注げるメリットがある。

 そして第5が「前提条件をつなぐ」という逆張りの戦略だ。

 前提スキルが足りない段階で、あえて難しいスキルに挑戦してしまう。当然つまずくが、そこで一歩引いて不足している基礎を学び、再び挑戦する。

 これを繰り返すことで、実際にはパフォーマンスに影響しないサブスキルに無駄な時間を費やすリスクを大幅に減らせるのだ。

「苦手」に向き合う勇気が学びを加速する

 5つのワザに共通しているのは、「自分が苦手な部分をあえて直視する」という姿勢だ。

 著者によれば、基礎練習を行う際に最大の障壁となるのは、方法論よりもむしろ心理的な抵抗なのだそうだ。

 得意なことを繰り返すほうが気持ちいいのは当然で、弱点に正面から向き合うにはガッツが必要ということだ。

入念に設計された基礎練習は、意味のない単調な作業などではない。難しい学習課題を前に、それを分解して乗り越えようとすることで、学習者の創造性と想像力を引き出すのである。(『ULTRA LEARNING 超・自習法』より)

 学校の宿題として「やらされる基礎練習」と、自分の弱点を突くために「自ら設計する基礎練習」とでは、まるで性質が異なると著者は強調する。

 筋トレにたとえれば、「なんとなくジムに通う」のと「弱い筋肉を特定してピンポイントで鍛える」くらいの違いだ。

AI時代に「分解する力」が効く理由

 社会人の学び直しは、いまや国策レベルのテーマである。

 しかし、「何をどう学ぶか」の戦略がなければ、せっかくの機会も活かしきれない。

 本書が提示する基礎練習の考え方は、プログラミングでもデータ分析でも語学でも、あらゆるスキル習得に応用できるだろう。

 たとえば、Pythonを学んでいて「コードは書けるがエラーの原因特定が苦手」という人なら、エラー解析だけを集中的に練習する「認知要素での分解」が効くかもしれない。

 プレゼンが苦手なら「話す内容」と「スライドのデザイン」と「声の出し方」を分解し、最もボトルネックになっている要素だけを虫メガネ法で鍛えるのもよいだろう。

 「全体を繰り返すだけ」の学習から脱し、自分の弱点を特定して分解する。それだけで、学びの質は驚くほど変わるはずだ。