デフレからインフレへ経済環境の変化
株高と併せて何といっても見逃せない変化の一つは、経済がインフレ傾向に変わっていることだ。わが国のインフレは、基本的に円安と資源や食料の価格上昇(コストプッシュ型)ではあるものの、デフレからインフレへと変化したことは事実。ここ数年、企業は収益を守るために値上げを実施していて、家計はそれを受け入れざるを得ず、消費者物価指数の上昇率は2%を上回った。
日経平均株価は、1989年末に当時の高値(3万8915円87銭)を付けたが、90年の年初から下落し、資産バブルは崩壊した。90年以降の経済環境を改めて振り返ると、バブル崩壊により企業は急激な資産価格下落と景気悪化に直面し、極端なリスク回避に傾いた。政府は不良債権処理を加速するよりも、97年度までは公共事業関係費を増やした。こうしてバブルの後始末は遅れ、97年には金融システム不安が起きた。
不良債権問題が深刻化すると、デフレ圧力が高まった。さらに2008年9月のリーマンショックも、景気低迷を長引かせた。賃金水準は低迷して需要が減少し、持続的に物価が下落するという負の循環にわが国は陥った。また、電機産業などで国際分業への対応が遅れたことで、デジタル化への対応も遅れ、企業業績への懸念から国内の株価は低迷した。
ちなみに米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ。
デフレから脱しつつあるのと時を同じくして、新卒一括採用・年功序列・終身雇用の雇用慣行が徐々に崩れ、実力に応じた賃金制度を採用する企業が増えている。労働市場の流動性は高まっており、賃上げできなければ淘汰(とうた)される企業も増えるだろう。
労働市場の流動性が高まり、生産性の高い分野に経営資源が再配分されるようになることは、経済の本来あるべき姿であり、そこにわが国も向かい始めた。「現状維持を優先するだけでは成長は難しい」と考える経営者は増えている。
収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう。