「大喜利を出し続ける生活を8年以上、続けています。休んだことは、1日もありません」
そう語るのは、これまでX(旧Twitter)上で8年間365日、毎日欠かさず大喜利のお題を出題し、累計で200万以上の回答を見てきた「坊主」氏だ。いまや空前の「大喜利ブーム」。大喜利のように「斜め上の発想を出す」というスキルは、「面接での一言」「LINEでのうまい返し」「意中の相手を口説く言葉」「新企画のアイデア」などに使える“万能スキル”でもあるのだ。そんな大喜利について、世界で初めて思考法をまとめた話題の著書『大喜利の考え方』では、「どうすれば面白い発想が出てくるのか」「どんな角度で物事を見ればいいのか」などを超わかりやすく伝えてくれている。まさに「面白い人の頭の中」が丸わかり。そこで、この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、大喜利的な思考法を詳しく解説する。(構成/種岡 健)
ネット上で大喜利のお題を出しています
はじめまして。
坊主と申します。
ネット上で大喜利のお題を出しています。
2024年1月現在で、公式Xはフォロワー190万になっています。
この顔を一度くらいは見たことがあるかもしれません。
かれこれ、8年間以上、これまで2万件以上の「お題」を出してきて、200万件以上の「回答」を見てきました(現在も進行中)。
大喜利と回答の流れ
最初に、私の一日のルーティンをご紹介しましょう。
①「お題」を大体20~30分で考える
思いついたときにメモしているので、そのストックを使うことも多いです。
お題のリクエストも随時、募集しています。
私なんかより「いいお題」を思いつく人は、たくさんいます。みなさん、どんどんお題を教えてください。他力本願で、私はお坊さんの仕事に精を出すことができます。
②夕方から夜にかけて「お題」を7個ほど出す
例)「『円安』を小学生でもわかるように説明した人が優勝」選手権など
③みなさんに「回答」を考えていただく
お題について、フォロワーのみなさんに、仕事終わりや夕食後、寝る前に、じっくりと回答を考えていただき、返信してもらっています。
ちなみに、大喜利のお題は、「◯◯はなんでしょう?」と、直接問いかける形式が多いと思います。
そんな中で、私は「選手権」という表現を使っています。気軽にエントリーできる感じがするからです。
そういった、お題の出し方のポイントは、3章で説明しましょう。
④翌朝、集まった「回答」を集計する
2~3時間ほどかけて回答を精査し、「最優秀賞」「金賞」「入選」「落選」「高齢の住職賞」などの賞を与えています。基本的には、「いいね」の多い順ですが、私の判断で各賞それぞれに意図があります。
⑤最後に、私から「結果発表」をし、みなさんに優秀な回答をお知らせ
7つのお題のうち、1つはバズるほどの「いい回答」があって、3~5つは「まあまあの回答」、1~3つはあまりいい回答がないという傾向です。
以上です。そんな生活を8年以上、続けています。
休んだことは、1日もありません。私、坊主は何を隠そう、
「三日坊主が大嫌い」
なんですよね。
体を壊しても、身内に不幸があっても、大災害が起こっても、このルーティンを一度も欠かしたことはありません。
そういう意味では、私以上に「大喜利」に労力をかけている人はいないのではないかと自負しています。
「壮絶な人生」のすべてを語る
2011年3月、私は山での長い修行生活を終えて、師匠のいる寺に戻りました。
東日本大震災の津波の影響で、師匠は行方不明になっており、お寺の本堂が避難所になっていました。
約2ヶ月の間、避難所で被災者の方々と寝食を共にしました。
やがて、避難所にいた被災者の方々は仮設住宅に移り、避難所は解散になりました。
檀家さんが津波で多く流されてしまい、寺の経営は成り立たなくなりそうでした。
それを機に、私は思い切って東京に出ることを決意しました。
上京する前に、実家の両親に会って(実家は寺ではありませんが)、「こんな決断をしてすまない……」と頭を下げようと思っていました。
寺から逃げ出す形になり、親からはがっつり怒られるのではないかと、内心ビクビクしていました。
すると、親からの最初の言葉は、
「もっと早くそう言い出すと思っていたよ、ご苦労だったな」
というものでした。
その言葉を受け、住む家も決めず、荷物をまとめて、東京へと向かいました。
東京に着くと、ネットカフェやゲームセンター、ラブホテルなどを1人で転々としました。
「どこか働ける寺はないかなぁ……」
そう考えて、日々を過ごしていました。
そこで、私を拾ってくれたのが「高齢の住職」です。
大喜利の「高齢の住職賞」のモデルとなった住職です。
その住職の寺で月に数回、最初は日払いで働き始めました。
後に月給制になりましたが、それだけでは十分に暮らしていけないのでいろいろなアルバイトを掛け持ちしました。
ハプニングバーのバイトの面接にも行きました。ハプニングバーの店員からは、「ベビードールの格好で接客してもらいますが大丈夫ですか?」と言われて、「坊さんなんで無理です」と断りました。
修行時代が長かったせいか、娑婆の空気にどうも慣れず、ちょっと迷走していました。
坊主バーというお店でもバイトをし、牧師や神主と一緒に働いたりもしました。
そこで当時のツイッターを始めることになります。
ネット上でどんどん「一人歩き」していく
最初は、仏教の豆知識を面白おかしく発信していました。
そのときにふと、投稿の最後に、
「……と、高齢の住職が言っていました」
という一文を付けることをやってみました。
するとそれがものすごく反響がよくて、たくさんの人たちに読まれるようになりました。
「日めくりカレンダーにしませんか?」と出版社からの依頼もあったほどです。
もちろん実際に高齢の住職が言っていたことも投稿していましたが、徐々に創作も加えるようにしました。
SNSはエンタメで虚構の世界でもありますから、「高齢の住職」という言葉を見ると、「人生の大先輩+住職」という印籠を突きつけられて、「みんながありがたがるのだなぁ……」と、ネットの仕組みがぼんやりと理解できた気がしました。
半ば架空の高齢の住職が、ネット上でどんどん一人歩きして人気になっていく現象が、なんとも面白いものでした。
過去の投稿で最初に反響が大きかったのが、
「坊主バーの木魚がなくなった。どなたか間違えて持って帰っていませんか? これをリツイートしたらお経一巻唱えたことになります。その名もワンクリック祈祷」
というものでした。これがウケてYahoo!ニュースに掲載されました。
なぜ、この投稿をしたのかというと、前日に尼さんと浅草のストリップを見に行き、踊り子さんのショーに感動したからです。
「私も、もっと頑張らなきゃダメだ!」と思い、この投稿を考え出しました。
「〇〇選手権」誕生の瞬間
やがて、仏教の豆知識が底をつき、「第三者に面白いことを考えてもらって、それを発表したらラクできるんじゃないかな?」と考えました。
お題を出し、フォロワーが考え、結果発表する、という「大喜利の形式(選手権)」が生まれた瞬間です。
やり始めたタイミングがよくて、一気に話題になっていき、たくさんの名回答が生まれました。どんなものでも、「先行者利益」があるのは間違いないですね。
ネット上には、すぐに面白いことが言える超天才がたくさんいて、そのことに驚かされました。
大喜利に参加してくれている人の中には、就活の面接でこの大喜利で最優秀賞をたくさん取ったことを言い、内定をもらって働いている人もいます。社会人生活の中で大喜利が何かの役に立っていることを願っています。
また、「〇〇に行ったらこれ買え選手権」「おすすめの〇〇選手権」などを開催しているため、その投稿がバズると、その商品がネットで在庫切れになり、企業さんからお礼の品物が届いたりします。
「おすすめのシャンプー選手権」をやったときは、私の元にたくさんのシャンプーが送られてきました。
私に髪がないことが悔やまれます。ただ、私の経営するバーのアルバイトやお客さんにあげることで喜ばれました。この場を借りて、お礼をお伝えします。ありがとうございました。
あと、大喜利に参加している者同士で出会って結婚したカップルもいます。
そんな報告もたまに届きます。
生まれた子どもには、どんな名前がつくのかなぁと考えてしまいます。
大喜(だいき)や、喜利子(きりこ)とかでしょうか。
嬉しいですよね。
ただ、報告だけで結婚式に呼ばれたことはありません。
この影響力で「承認欲求」を満たしたい
大喜利の回答は、私のフォロワーが考えてくれています。
私が考えたわけではありません(お題を考えたときに想定する回答例はありますが)。
それなのに、「坊主が面白い」と勘違いする人が続出していて、たいへん申し訳ない気持ちでした。この場で一応、そう言い訳をさせておいてください。
これから先も、1つでも多く大喜利を出題して影響力を持ちたいなと思っています。
その影響力があると、大津波警報や特別警報など、何か危機に面したときに大事な情報を拡散できるからです。
犬や猫の迷子情報の拡散も積極的にやっています。
2011年に東北から逃げ出した私に、お釈迦様が与えてくれた任務・責務だと勝手に解釈してやっています。
せっかく、みなさんのおかげで100万以上のフォロワーとつながっているのですから、これは絶対にやらなきゃならないと思っています。
フォロワーのみなさん、大喜利に参加してくれているみなさんには、本当に感謝しております。
私はお題を出してまとめているだけで、手柄をすべて坊主が持っていき、まさに「坊主丸儲け」と揶揄されているのは知っています。
しかし、そうは言っても、面白いことを言い、たくさんの「いいね」がついたら、承認欲求が満たされて最高に嬉しいことも知っています。
「俺はようやく認められたんだ」「やっと日の目を見れた」となると、自信がつくと思います。
非リア充の承認欲求に応える、最高の居場所を作れたと自負しています。
私をフォローする全国100万人以上のニートのみなさん、これからも私の大喜利への参加をどうぞお願いします。
(本稿は、『大喜利の考え方』から一部抜粋した内容です。)
ポケモンGOのやりすぎで坊主バーをクビになった僧侶
日本一の大喜利アカウント
X(旧Twitter)は、2024年1月現在で190万フォロワーを突破。元々、「2ちゃんねる」が大好きで、「匿名で面白い回答をする人がたくさんいる!」ということに衝撃を受け、Xでお題を出し続ける。これまで8年間365日、毎日欠かさず大喜利のお題を出題。累計で2万以上のお題を出し、数百万以上の回答を見てきた。昼は僧侶として働く、正真正銘の「お坊さん」でもある。また、都内に「虚無僧バー」「スジャータ」というBARを2軒経営しており、誰でも1日店長ができる店として、さまざまな有名人やインフルエンサーなどに店長を任せている。BARの名前の由来も仏教からとられている。『大喜利の考え方』(ダイヤモンド社)が初の著書。