防衛大学校の学校長などを務めた政治学者の五百旗頭真さんが、3月6日に亡くなりました。80歳でした。米国でトランプ政権が再び誕生する可能性が高まる今、追悼の意を込めて、特集『総予測2017』内でインタビューした記事をもう一度、紹介します。16年にトランプ政権の誕生が決まり、世界情勢が混沌に向かい予見が困難になる中、日本に迫るリスクと、取るべき外交政策を聞いたものです。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
※本稿は、週刊ダイヤモンド2016年12月31日・2017年1月7日新年合併号で掲載したもの。全ての内容は初出時のまま
――次期米大統領にドナルド・トランプ氏が決まりました。
2016年は、人類史に「極めて厳しい年であった」と、大きな転換点として刻まれることになるのではないでしょうか。英国のEU離脱を含め、これまでの国際秩序構造を支える中軸が自ら瓦解する姿を目の当たりにしたからです。
私は16年9〜10月の1カ月間、米ハーバード大学に滞在していました。その際に、トランプ氏が自らの品性を欠く発言で支持率の低下を招く中、同大学のジョセフ・ナイ教授とカート・キャンベル元国務次官補が組み、ヒラリー・クリントン政権の誕生を見越して、ブレーン120人を集めるリクルートが始まった、という情報が流れました。「そうか。勝負ありなんだな」と胸をなで下ろしたのですが、クリントン氏の「メール問題」をFBI長官が再燃させた結果、両候補の支持率は急接近し、ふたを開けてみれば、逆転となりました。まともな政治・外交センスを持つ人々が、反既成勢力の機運の中で駆逐されたのです。
米国際政治学者のサミュエル・ハンチントン氏が、冷戦終結後はイデオロギー対立に代わり、「文明の衝突」の時代に突入すると主張しました。米国中心の西欧文明に、イスラム文明と中国文明が手を結んで挑戦する、とみたのです。
予想の一部は外れていて、イスラムと中国の両文明は結託していない。ただ、既存の国際秩序に対し、イスラムからは破滅的な自爆テロ、中国からは急激な軍拡と、やり方は違えども二つの厄介な挑戦を受けていることは間違いない。ローマ教皇の「第3次世界大戦」は言い過ぎですが、中国流で「天下大乱」、または日本流に「乱世」の時代にあると言うべきです。
にもかかわらず、対峙すべき米英という西欧文明の中心国が16年、自壊してしまったのです。
――日本にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。